TEXT=小林薫(編集部)
4・5月と、新型コロナウイルス感染防止のため、休館や展覧会の延期をせざるを得なかった博物館や美術館。アートファンの読者の中には、施設の状況を心配している方も多いのではないでしょうか。かくいう私もその一人、前号のKappo7月号にて、急きょ文化施設の開館状況一覧コーナーを作り、施設の動向から目が離せませんでした。
そうこうしている間に、延期になった特別展はあるものの、入館制限や様々な感染対策をしながらほとんどの施設が再開を果たしました。
宮城県美術館は、「ウィリアム・モリス」展が5月18日から会期を遅らせてスタートし、28日に閉幕。それから約1ヵ月で今回の「リヒテンシュタイン侯爵家の至宝展」が始まりました。
前回の「ウィリアム・モリス」展には間に合わず(ものすごく悔しいです)、宮城県美術館を訪れるのは「ストラスブール美術館」展以来、約半年ぶり。
4連休の真ん中ということもあってか、館内の賑わいは通常の土日よりやや少ない印象でした。
会場内に入ると、まず出迎えるてくれるのはヨハン・アダム・アンドレアス1世の肖像メダル。歴代侯爵家の中で最も芸術に財を投じたと言われています。そこから始まるのが肖像画のコレクション。どれも美しい、イケメン、で思わずうっとりでしたが、中でも驚いたのが、子どもの肖像画。1歳半の女の子は無垢な眼差しでなんとも言えない愛らしさ。ヨーゼフ・ノイゲバウアー《リヒテンシュタイン侯フランツ1世、8歳の肖像》は、8歳ながらにしてすでに貴族の風格。でもイケメン。美しいと感じるものはみんな同じようで、グッズにもなっていました。
その後、宗教画、神話・歴史画、と絵画は続きます。
宗教画には主題が多くありますが、聖母子、マグダラのマリア、聖ヨハネなど、このコレクションはその主題がとにかく多岐にわたるのが特徴。
個人的に、ルーカス・クラーナハ(父)のような輪郭がはっきりした絵が好みです。
章ごとに壁の色が別れており、とても見やすいです。
驚いたのは磁器。東洋で誕生した磁器は美しさからヨーロッパでも好まれており、日本や中国から大量に流入したそう。そのままでももちろん美しいのですが、中には景徳鎮窯や有田焼の磁器に、ヨーロッパで金属装飾が施されたものがありました。
あまりの重厚感に、圧倒されました。その後、自国や近隣国で生産されるようになっても、東洋風の絵付けや柄が好まれたようです。ヨーロッパの職人が絵付けした、中華風の建物や人物は、細かいですがおもしろいです。
この磁器にも絵画や人物画が描かれるようになり、さらに発展していった様子が伝わってきます。
風景画の章には、キャンヴァスに描かれたものはもちろん、皿やカップに描かれたものも展示されています。
おしまいは、静物画の中でも当時特に人気だった「花」がモチーフの絵画。金のカップに鮮やかに描かれた花や、まるで油彩画のように絵付けされた陶板画、ウィーン・帝国磁器製作所/絵付け:ヨーゼフ・ニッグ《黒ブドウのある花の静物》などは、本物を見たらきっと驚くはず。
会場出口のほど近くに展示されたフェルディナント・ゲオルク・ヴァルトミュラー《磁器の花瓶の花、燭台、銀器》は、息を呑むほどに美しく、緻密で繊細です。
会場を出た後、豪華絢爛な作品を見た充実感はもちろんですが、こうやって再び芸術作品を鑑賞できるようになったことに、うれしくなりました。
チケットカウンターは透明な仕切りが天井から垂れ下がり、入り口の前にも、玄関の先にもスタッフさんがおり、人と人との距離、手指消毒の声がけなどを徹底している印象です。展覧会会場の入口には消毒用アルコール、さらにサーモグラフィーで体温を測り、異常がなければ入れる仕組みになっています。会場内でも感染防止のための声がけのアナウンスが流れています。
どうしても、鑑賞ペースが同じくらいだと一つの絵に人が集まってしまうことがありますが、そこもスタッフの方が声をかけていらっしゃいました。
展示室内で大声で話す、展示物・ショーケースを触る、なんてことはないと思いますが、自身でも徹底すれば気持ちよく鑑賞できるのではないでしょうか。