文=編集部
色彩鮮やかな花々。その間をすり抜ける茎葉。伝い絡まる蔦の行方。その綿密さに思わず目を奪われるテキスタイルには、生活の中に美を求め、モダン・デザインの父と呼ばれるウィリアム・モリスの想いが込められている。
モリスが本格的に活動し始めた19世紀後半、拠点としていたイギリス国内は産業革命が進展した後の時代だった。自然は奪われ、世にあふれるのは機械によって大量生産された安価で粗悪な品々であった。モリスはそんな世の風潮に異議を唱え、「モリス商会」を設立。生活に寄り添う室内装飾品を中心に、草花を描いたテキスタイルの、壁紙や家具、ステンドグラスなどの制作に邁進した。「アーツ・アンド・クラフツ運動」と称されるその精神は、イギリス国内のみならず各国に大きな影響を与え、20世紀のモダン・デザインの源流と言われている。
本展では、これまで顧みられることのなかったモリスの幼少期や学生時代にはじまり、晩年に至るまでを全6章で紹介。制作活動に深い関わりをもたらした、住まい、働く場所、生活環境を巡りながら、装飾作品約150点とともにその生涯を辿る。さらに大阪芸術大学の特別協力により、モリスが晩年に設立した印刷工房『ケルムスコット・プレス』で刊行された53書目66冊を、前後期にわけて全巻展示する。
生活に必要なものこそ美しくあるべき。生活の細部に至るまで薫り高い芸術で満たす事を夢見て、追求・表現したデザインとは何か。画家やデザイナーの仲間とともに、生涯にわたり室内装飾品や家具の制作に注力してきた彼らのデザインの世界を楽しみたい。
■ Kappo 2020年5月号 vol.105 ■
巻頭特集は「新 まち歩きの教科書」と題し、新しい“まち”の魅力を探しに出かけてみました。第2特集として「第3回 仙台短編文学賞」の大賞&プレスアート賞の受賞作品を全編掲載。10回目を迎えた「bonとponの宮城ふたり遊び」は、今回は『塩竈市杉村惇美術館』へおでかけしました(3月上旬取材撮影)。ぜひ本誌をご覧ください。
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