PHOTO_池上勇人
TEXT_梅津文代(編集部)
あるワイン会で知り合ったご婦人に「今度、塩竈に遊びに来ませんか」とお誘いをいただいた。彼女は、かねてから行ってみたいと思っていた『男山』の常連だった。別な方からも「いま、宮城で一番面白い店かもよ」と噂を聞いていた店だ。
予約時間ギリギリで本塩釜駅を降り、スマホのマップを起動する。タクシーに乗るまでもなく、歩いていける距離だった。杉玉を吊るした入り口は控えめで、夕闇に白い暖簾が揺れている。
最初に「フライドチキンです」と冗談めかして登場したのはスパイシーな手羽先。熱々のチキンにかぶりつくと、もち米やトウモロコシなどがぎっしり入っている。ジャークチキンのバリエーションのような味付けで、コースの幕開けとしてはなかなか刺激的だった。続いて「マルゲリータです」とグラスが供される。梨とクリームチーズにパルミジャーノ、下の液体はトマト10個ぶんの濃厚なジュースだという。トマトの酸味にほのかな青い香り、チーズのコク、果実の軽やかな歯ざわり。それらが渾然一体になるとピッツァ・マルゲリータを食べているような摩訶不思議。
お造り、焼き物、途中で穴子バーガーをはさみ、食事、デザートまで。厨房から店主・佐藤さんが手渡しする料理もあり、カウンター席こそが店の楽しさを満喫できる特等席だろう。酒はすべて阿部勘酒造だが、季節の限定酒もあり飽きさせない。いつか取材を、とお願いしていて、今回ようやくそれが叶った。秋の魅力たるはらこめしも詳しくお伝えしたいところだが、そこはぜひ誌面でご確認を。「知っているとちょっと優越感に浸れて、大切な人をもてなす時にもふさわしい」。まさしく本特集を体現する「美味なる隠れ家」の一つである。