Kappo 仙台闊歩

FOOD 2022.12.31

【Kappo編集部厳選】一度は行きたい、福島県のイタリアン&料理店4選

写真=呉島大介、齋藤太一 TEXT=川野達子

宮城県仙台市発・大人のためのプレミアムマガジン『Kappo 仙台闊歩』の編集部が厳選した東北の名店を、県ごとにご紹介。ハレの日のお祝いごとや旅の目的地としても、ぜひ参考にしてください。

1.『Incontra Hirayama』(郡山市)

〝料理×ワイン〞の口福に
イタリアンの奥深さを知る

短黒牛は表面をバチッと焼き、あとは低温で火を入れる。猪苗代産黒米のリゾットと葉玉ネギを添え、肉の下には焼きナスのマリネ。 ソースは木樽に3年寝かせた自家製モストコット。

短黒牛のトリッパが手に入った時に出るトマトソースのパスタは 絶品。トリッパと手打ちパスタ・トロフィエの食感もいい。ウン ブリア州のモンテファルコ・サグランティーノと共に。

シェフとの距離が近いカウンター席は居心地よく、長居したくなる。

店があるのは繁華街を抜けた住宅地の一角。そこだけいつも賑やかだ。素材を活かした本格的なイタリア料理とイタリア産ワインのペアリングに定評があり、遠方からも客が絶えない人気店だ。

オーナーシェフの平山真吾さんは猪苗代町出身。実家のペンションを継ぐつもりで料理の勉強を始め、大阪で和食の修業をしていたとき、偶然出会ったイタリアンのシェフに「1年間一緒にやらないか」と誘われた。それが大きなターニングポイントとなった。

「イタリアの料理とワインに衝撃を受けました。こんなに面白くておいしいものがあるのかと感動してしまったんです」。イタリアの気質も好きになった。

シンプルに素材を活かすイタリアンは和食との共通項も多いが、料理とワインがお互いを高め合うマリアージュは刺激的だった。その刺激を実際に感じてみたいと思った平山さんは、イタリアをはじめ世界各国の食と酒のつながりを知る旅に出た。それは料理の知識と経験を積む旅となった。

帰国後、実家に戻りペンションの2階でイタリア料理の店を始めたが、食と酒をつなぐという本来の目的は果たせずにいた。知人から郡山への誘いを受けたのはそんな時だった。「自分のやりたいことをやるには出てきた方がいいんじゃない?と。その言葉に背中を押してもらいました」

念願の店を現在の場所に開いたのは2015年。福島全域の食材を使い、自分なりのイタリア料理を提供する店にすると決めた。

「僕の料理は素材との出会いから始まります。いい生産者と出会い、いい素材と巡り合うのも僕の大切な仕事です」。特に野菜は生産者の顔が見えることが大事だと話す。「今は自分の好きな農家さんから野菜ごとに仕入れています」。農家の負担を減らすため地域の料理人と連絡を取り合い食材を共有することもある。

「短黒牛って知ってます?」と平山さん。短角牛なら知っている。もちろん黒毛和牛も知っている。聞き間違いかと聞き直す。

「二本松の酪農家さんが、短角牛と黒毛和牛を掛け合わせて作った品種です」。出会ってすぐに惚れ込んで、約2年が過ぎた今でも熱い想いは変わらないままだ。

「短角牛の赤身の旨みと黒毛和牛の脂の旨みのバランスが絶妙で、おいしさがストレートに伝わります。黒毛和牛よりあっさりしていて食べ飽きないのも魅力です」

この日、短黒牛ヒレのソテーに合わせるワインとして、平山さんはピエモンテ州のネッピオーロを選んだ。土着品種のネッピオーロは、イタリアの偉大な赤ワインであるバローロやバルバレスコに使われ、イタリアの最も高貴なブドウ品種の1つと言われている。

短黒牛の特別感のある旨みはそれだけで美味。ネッピオーロもしかり。だが合わせることでさらなる口福感に包まれる。時間の経過とともにグラスの中でワインは変化を見せ、皿の中でもバリエーションが生まれる。それは新たなマリアージュとなり、料理とワインがお互いを高め合うイタリアンの奥深さを教えてくれる。

店の食材はほとんどが県内産だ。桃は福島市で豚肉は郡山市。リゾットは猪苗代町の自然農法栽培米「亀の尾」を使う。どれも最高級品だ。「県内で最高のものが見つかれば最高。そうじゃなければ最高のものを探すこともあります」

ジビエは県外から仕入れている。県内のイノシシやシカは未だ出荷が制限されている。狩猟免許を持っている平山さんはそれでも山に入る。震災後、農家に被害をもたらす害獣となったイノシシやシカを撃つためだ。

「いつかジビエを復活させたいですね」。平山さんはその日を待ち望んでいる。

Incontra Hirayama(インコントラ ヒラヤマ)

住所
福島県郡山市赤木町11-20
電話
080-3152-3046
時間
11:30~13:00LO、18:00~21:30(20:30LO)、21:00~24:00(23:00LO)※ワインバータイム
休日
火曜
WEB
https://www.incontra-hirayama.com/
2.『Ristorante Martello』(郡山市)

絶妙な火入れ、繊細な味の加減
素材に対する実直さが伝わるイタリアン

赤身とサシのバランスに優れた福島牛A5ランク〝イチボ〞の炭火焼。単品は1人前200gで4950円。サクッという食感とすっきりした味わいは秘伝の塩との相性もよい。

ディナーコースの前菜で供される「イワシとカポナータの冷製」。自然派ワインのピノ・グリージョを合わせて。

木のぬくもりが心地よい。個室も用意。

素材が持つ味を偽りなく表現したいと話すオーナーシェフの村上悟さん。その想いが偽りでないことは実直な料理から感じ取ることができる。夏野菜を煮込んだカポナータでさえ素材一つひとつの味が明快。それでいてトマトソースを纏って一体感を損なわない。

夫婦念願のリストランテを2010年にオープンし、5年前に現在の場所へ移転。常連で賑わう店には県外客も多い。ランチで訪れて店を気に入り、ワインを飲みながらゆっくり楽しみたいと、ディナーコースを予約する客も少なくない。

マルテッロのスペシャリテは、店の中央に配した窯で焼く福島牛のイチボとランプ。「特に産地にこだわらず、最初はいろいろ試してみました」と村上さん。上質であることを念頭に厳選した結果、A5ランクの中でも最上級の肉質とされる5等級の福島県産ブランド牛「福島牛」にたどり着いた。

注文を受けると、まずは肉を常温になじませ、村上さんを含めスタッフ3人しかレシピを知らない秘伝の塩をふり、備長炭で20分ほどかけてじっくりと火を入れていく。しかし食すにはまだ早い。切ればあふれ出す肉汁が旨みとなってとどまるまで、火入れと同じ時間をかけてゆっくりと休ませる。

それまでの間、コースなら朝採れの無農薬野菜と新鮮な魚介をあしらった前菜を楽しめる。「イワシとカポナータの冷製」はマルテッロの夏の定番。酸味のあるカポナータをイワシで挟み軽くグリルし、冷やしてある。仕上げに煮詰めたバルサミコを少しだけ。そのコクで全体の味はキリッと締まり、冷えた白ワインが一気に進む。

黒板を埋め尽くすアラカルトから数品チョイスして待つ常連も多い。「天然クロソイのアクアパッツァ」や「渋谷さんが釣ったヤリイカのフリット」など、早く常連になりたいと思わせる多彩なラインナップが並んでいる。

Ristorante Martello(リストランテ マルテッロ)

住所
福島県郡山市富田東1-368
電話
024-973-8611
時間
11:30~15:00(14:00LO)、 18:00~22:00(21:00LO)※土・日曜、祝日17:30~
休日
水曜、第2日曜 (変動あり。要問い合わせ)
WEB
http://martello.jp/
3.『美味いもん屋 わ多なべ』(いわき市)

和の基本に忠実に
おいしさを追求した創作料理

いわきといえばメヒカリ! 生食は皮をひき、炙りは皮目を焼いて香ばしく。いわき沖の底引き網漁が再開する9月以降に再登場する予定。

「野菜のジュレ」には自然農法で栽培した野菜や会津伝統野菜「余撒きゅうり」など10種の夏野菜を使用。

料理に合う日本酒やワインも充実の品揃え。料理と好みに合わせて女将が選んでくれる。店一番の名物は「冬場のあんこう鍋」と渡邉さん。

かの地に旨いものありと聞けば自らの舌で確かめずにはいられない。店主・渡邉達也さんの貪欲な探求心は、開業から15年を迎えますます旺盛だ。

「和の鉄人」道場六三郎さんを師とし腕を磨くこと19年。その間、道場さんのすすめで佐世保や金沢など地方で経験を積み、フレンチの名店でも修業。道場さんが中華食材で作る料理から中華料理の基本も学んだ渡邉さん。当然、食材にもこだわりがある。早朝3時から始まる仕入れのルートは各地にあり、良質な食材を全国から取り寄せているが、震災後は地元の生産者と顔の見える関係を築くことにも心を砕く。「今日は、小名浜港に水揚げされた伊勢エビとアワビを使います」。常磐ものの水揚げも増え市場も活気づいてきたと相好を崩す。

旨いもの、旨い味を知り尽くした上で供されるコースは実に多彩。その始まりは野菜が主役の一品と決まっている。「まずは体が喜ぶ料理を」と渡邉さん。夏の間は見た目も涼しげな「野菜のジュレ」。女将が合わせた地酒との相性もよく、あっという間に食べ終える。聞けば10種の野菜はそれぞれ酢漬けや赤ワイン漬けなどの下処理されたもの。ジュレには野菜を5〜6時間煮て取ったダシを使い、その野菜も3週間乾燥させたものだという。

「食材は厳選しているのでおいしいのは当たり前。それをもっとおいしくするために手間は惜しみません」。それが渡邉さんの矜持だ。

蒸したアワビに添える肝ソースにはフレンチの技法を取り入れ、フワッとした食感に仕上げている。フカヒレ煮には会津産五穀米のご飯を軽くあぶって添え、「フカヒレの旨みに香ばしさが加わるし、白米よりソースがよくからみます」と高級中華の料理人のようなことも言う。しかし一番大切にしているのは、和食の基本「だし」である。「枕崎産のカツオとムロアジのブレンドを使用しています」。カビ付けまで指定してある。「それは今でも親父(道場さん)がやってくれるんです」

基本に忠実であれば発想は自由でいい。道場さん直筆のロゴに込められた想いでもある。

わ多なべ(わたなべ)

住所
福島県いわき市平字白銀町4-1
電話
0246-24-6269
時間
18:00~22:00(21:00LO)
休日
日曜、祝日
4.『小判寿司』(棚倉町)

旨い魚にひと手間かけて
妥協なき店主の矜持を味わう

熊本県天草産才巻エビは4割なまの状態で。

秋田のキス。シャリとネタの間に芝エビのおぼろが挟んである。

相馬のスズキ。

コの字型のカウンター。和知さんの職人技こそ最高のごちそう。

取材依頼の電話を入れ女将さんと話していると、「仙台の小判寿司と間違ってんじゃないかあ?」とかすかに聞こえてくる。そのトーンから、きっと人のいい親方だと想像する。店主の和知慎吾さんはそのイメージ通り、人柄の良さがにじみ出た粋な寿司職人だ。

福島県出身の和知さんは仙台の小判寿司で9年間修業した。初代親方、鞠古仁さんに師事し寿司職人としてのいろはを教わった。というよりそばにつき、見聞きして多くを学んだ。職人の育成に熱心だった鞠古さんが講師の依頼を受けたときも助手として同行し、その知識を吸収した。「道すがら貴重な話をたくさん聞かせてもらいました。多くの弟子の中で誰よりも長い時間を一緒に過ごしたと思います」。ずっと仙台にいるよう声もかかったが、故郷に戻るという意志は揺るがなかった。暖簾分けを許された和知さんは「小判寿司」の名を継承し、地元の棚倉町に店を構えた。

寿司職人に必要な技術や知識は鞠古さんを通して見聞きしたものばかり。独立から25年が過ぎ、全国の寿司好きが集う東北屈指の名店と謳われる今も、和知さんの根底には師匠の教えが脈々と流れている。

棚倉町は海が近くない。小名浜港まで70㎞はある。のどかな景色が広がる田舎町で人が大勢集まる観光地でもない。つまり客は小判寿司を目的地として来ているはず。小手先だけのごまかしは通用しない。「この場所で寿司屋をやるのは一発勝負」。そう理解した上で、でき得る限りの最高を目指し準備は怠らない。

扱う魚は旬の天然もの。年に一度は熊本の天草や北三陸など全国の産地を回り、信頼関係を築いた漁師から直接仕入れている。地元の魚は毎朝5時に50㎞先の郡山市場まで車を走らせ、和知さん自ら目利きする。品質と鮮度の良さは申し分ないが、味覚の旬と必ずしも一致するものではない。鞠古さんから受け継いだ江戸前の伝統技法に倣いながら、魚一つひとつの個性と状態を見極め、客に出すタイミングに最上の旨みとなるよう手を尽くす。
常磐もののアワビは、アワビの汁とハマグリの汁で蒸し煮する。7080℃の低温でじっくり4〜5時間かける。豊かな香りに包まれながら、凝縮された旨みを存分に味わう。熟成するのを好まず、しかし例えばスズキはねっとりするまで待って握りにし、刺身は歯応えのある状態で出す。

江戸前といえば赤酢を使ったシャリにこだわる店も多いが、和知さんは師匠の手法に習い白酢を使う。今は少しだけ配合を変え、わずかに赤酢もブレンド。まろやかに仕上げている。シャリに使う米は天日で干した地元産のコシヒカリ。毎日使う分だけ精米し、郡山にある酒蔵「仁井田本家」の仕込み水で炊く。「僕ができる数少ない地産地消」と客を笑わす。

巧みな握りは言うまでもなく、福岡県糸島産の醤油がベースの煮切りは、出しゃばらない存在感がいい。口の中でほどけるシャリに魚の旨みがからみつく。喉を通り、続く余韻に地酒を飲む手が進む。

「寿司は握らなくてもいい。お前はちゃんと仕込みをしなさい」という師匠の教えを和知さんは今も大切にしている。「寿司屋は手をかけてナンボなんで」とうれしそうに寿司を握る。

客は全国から来るようになった。獲れる魚の旬や量も年々変わる。伝統は守りつつその変化を柔軟に受け入れる。しかし変えないものもある。「だし巻きと、エビのすり身入りのたまごは師匠の味です」。小判寿司の名を継いだ和知さんの信念である。

小判寿司(こばんずし)

住所
福島県東白川郡棚倉町古町30-2
電話
0247-33-7337
時間
11:30~13:30、17:00~22:00※完全予約制(予約受付時間9:00~11:00、21:00~23:00)
休日
水曜

記事の内容はKappo119号(2022年8月5日発売)掲載の情報です。
営業時間等は変更の可能性があります。

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