Kappo 仙台闊歩

FOOD 2022.12.30

【Kappo編集部厳選】一度は行きたい、岩手県の料理店&レストラン6選

写真=池上勇人、齋藤太一 TEXT=ナルトプロダクツ

宮城県仙台市発・大人のためのプレミアムマガジン『Kappo 仙台闊歩』の編集部が厳選した東北の名店を、県ごとにご紹介。ハレの日のお祝いごとや旅の目的地としても、ぜひ参考にしてください。

1.『ななしの庵』(盛岡市)

未だ知られざる岩手、その玄奥を旅する

「姫筍とミズ、ホヤ、江刺卵麺」、「とおの屋要 権化 MO CHUISLE」(グラス・2000円)。

「豚の乾し肉、タマネギ」。岩手山麓農園の無農薬栽培タマネギは、佐助豚で作った3年ものの乾し肉と野菜のダシで炊き、三陸のワカメやマツモ、ノリのペーストとともに。

在るべきところに在るべきものがおさまっている、という居心地の良さ。画家でもある石川さんの個展も10月後半「旧石井県令邸」で行われる。

新旧さまざまな店が肩を寄せ合うように並ぶ桜山神社の参道・内丸。通りに看板はなく、薄暮の頃にともされる灯りと暖簾がかそけき目印だ。

モルタルを打った土間や厨房、扉や水屋箪笥など、まるで戦後すぐに建てられた長屋をそのまま活かしたかのようにも見える、古びを帯びた造作。しかしその磨き込まれた清潔感から、粋人による古き良き時代へのあたたかな追慕であることが分かる。ここ『ななしの庵』が開店したのは2017年の6月。内丸に新風を起こした居酒屋の離れとして親しまれた店を、任されていた石川優太さんがそのまま引き継いだのだ。

青磁の菱皿の中で乳白色に光るのは、ライスペーパーにくるまれた鮎の自家製熟れ鮨。パクチー、クルミとレモンの蜂蜜漬を加え、全て岩手県産の食材でありながら、まるで東南アジアを思わせる暑い日の一皿目だ。こうしたかたちで箸の進み具合に合わせ、10品ほどが楽しめるコース仕立てだ。ごろりと断ち割られた鮑は、昆布と塩のみで4時間ほど炊いたもの。西和賀のワラビを火鉢の灰汁で灰汁抜きし、叩いた「わらびたたき」と合わせて味わう。「日置桜」の夏酒「山滴る」の米の旨みと力強さが、磯の香りと濃厚なダシをよりひき立てている。

『ななしの庵』で使う米は合鴨農法による無農薬米なのだが、その恩恵は米の旨さだけに留まらない。この米糠を乳酸発酵させて作った網張岳の姫筍とミズの水キムチ、この水キムチの汁でさっと洗ったホヤを江刺卵麺と合わせ、汁を楽しむ椀ものに仕立てた。米糠まで使って醸した「とおの屋 要」の「権化」を合わせ、発酵の凄みを味わうとしよう。

料理の修業らしい修業はしていないと言う。しかし、素材の目利き、多彩なダシのひき分け、燻製や熟成・発酵の知識と手法などは実に確かで、生来の誠実さや探究心、訪なう人への真心がこの「人には教えたくない名店」と秘される存在をつくりあげたのだろう。作家ものと骨董とが入り交じる器遣いの中で、料理の佇まいも味わいも、すべてが一葉の絵のように浮かび上がってくる。

ななしの庵(ななしのいおり)

住所
岩手県盛岡市内丸5-6
電話
019-613-6777
時間
12:00〜15:00、18:00〜22:00※前日までの完全予約制
休日
不定休
2.『Ristorante SHIKAZAWA』(盛岡市)

 食の深淵に立つ者の哲学

「大船渡産あいなめと麹」。

アミューズの「山田町産カキ氷」、「閖上赤貝」、「帆立スープ」、「ウニ牧場4年雲丹」。

深海を思わせるロイヤルブルーとアッシュグレーのカラーリング。イタリアのワインやスピリッツを豊富にラインナップ。

人は死を悼むことのできる唯一の動物であり、また自らの生と他の生物の死との密接な関係を自覚できる唯一でもある。食の根源にある原罪と、それに対する贖罪の在りかたとは。そんなことを、『シカザワ』のアミューズを前に考える。磯場を表現したジオラマアートともいえる4つの料理は、牡蠣、赤貝、帆立、ウニという4つの素材そのものの個性をより強く、濃く、くっきりと味わえるよう調理されたもの。柑橘やハーブの香りと風味、クリームやスフィアのテクスチャー、ソルベの温度感と相まって、それぞれの食材が育った環境の風景や匂いまでも伝わるようだ。

「震災が大きな転機でした。それまでも生産者との繋がりやいい素材のための環境づくりなどを大切にしてきたつもりではありましたが、すべてを一変してしまうあの大震災を経たことで、自分にできることは何なのか、料理の力とは、ということをより深く突き詰めるきっかけになったと思います」。

「蜂の巣と南部鉄器」と名付けられた前菜。クリスピーな球体の中には、鮮やかな甘酸っぱさと冷たさのラタトゥイユ。熱せられた南部鉄器と球体の間ではチーズがじりじりと焼かれ、味わえばチーズの芳しさと熱が冷たいラタトゥイユとせめぎ合い口中にドラマが生まれる。まるでヴァニタスのような静謐さを有する姿なのに、秘めているのは狂騒とさえ言えるおいしさ。料理でしか表現できない芸術だ。

大船渡に揚がった夏魚・アイナメは、身の繊維一本一本にふっくらとジュが回った最高の火入れで味わう。スフレのように柔らかく、淡く広がる旨み。糀とトマトを発酵させたオリジナルの調味料が、素直で優しいアイナメに鮮やかな彩を足す。

料理を楽しむことは快楽である。しかし快楽を長く豊かに楽しむためには哲学が必要だ。獲るからにはすべて食べきる覚悟や技術を持ち、守らなければ荒れ果てる環境にどうアプローチしていくのかを考える。『シカザワ』の料理は、そんなテーゼに満ちている。

Ristorante SHIKAZAWA(リストランテ シカザワ)

住所
岩手県盛岡市菜園2-4-6
電話
019-681-8511
時間
12:00〜14:30、18:00〜21:00※火曜18:00〜21:00※前日までの完全予約制(3ヵ月前より予約受付開始)
休日
月曜
3.『filo』(盛岡市)

糸は描く。食のイーハトーヴを

ランチコースの「前菜盛り合わせ」には八幡平の農家さんから届く野菜がたっぷり。ミネストローネ、蚕豆のリゾットのアランチーニ、ファリナータ、大根葉と帆立のフリッタータ、白金豚のサルシッチャとズッキーニの三谷牧場チーズ焼き、大豆のサラダ、2年熟成ジャガイモのインサラータ・ルッサ、北上産人参のラぺ。

ディナーコースより「いわて山形村短角牛のロースト」。サーロインをジュと赤ワインのソースで。「アール・ペペ・ロッソ・ディ・ヴァルテッリーナ2019」(グラス・1200円)のタンニンが、噛みしめるごとに滲む短角牛の旨みと一体に。

1階はカウンター席、2階にテーブル席。白の漆喰壁や飴色の梁が美しい。

盛岡の中でもモダンな歴史情緒あふれる中ノ橋通界隈。石畳のプロムナードに小さく口を開けた路地の奥に、一世紀は経ているであろう蔵を改装したイタリア料理店がある。

その間口の密やかさに臆することなかれ。『filo』に備わった空気感はオーナーシェフである中村 昌さんの雰囲気そのままに穏やかで親しみやすく、その陽の気は料理をも満たしている。信頼する農家から届いた旬をひとつひとつの個性を大事に料理し、「その日のすべて」とばかりに盛り込んだ前菜には、中村さんの食べてほしい気持ちが満々と湛えられている。

この日の手打ちパスタはブジアーテ。岩手産小麦のゆきちからがメインの生地を細い棒にくりくり巻き付けて中空にした、むっちりしゃっきり歯ごたえのパスタだ。くたくたに火入れして甘さを極めたブロッコリーに干し海老、アーモンドとトマトという多彩な旨みが渾然となって絡み、どこか懐かしい味わい。

花巻の白金豚にホロホロ鶏、羊、龍泉洞豚に各種銘柄牛、イノシシや鹿と実に多彩なカルネが楽しめるが、中でも人気は久慈市山形町産の短角牛。野山を駆け、無農薬の牧草を食んだ牛の肉は弾力に富み、中村さんの確かな火入れで潤沢にジュのあふれる極上の焼き上がりに。多くのファンが「肉を楽しみに来る」という理由にも大いに納得だ。

イタリア語で「糸」を指す『filo』。糸は生産者と店、そして味わう人を縦横に繋ぎ、盛岡の地に食のイーハトーヴ物語を描き出している。

filo(フィーロ)

住所
岩手県盛岡市中ノ橋通1-3-21
電話
019-613-9005
時間
11:30~13:30LO、18:00~21:00LO、日曜18:00~21:00LO※ディナーは前日までの完全予約制
休日
月曜
WEB
https://filo-morioka.com/
4.『御料理 寺沢』(北上市)

地場の素材で描く、緻密にして果断なる料理

「先付」。5時間かけて蒸した鮑の柔らかさ、車海老の弾力と濃い旨み、焼きトマトのじゅわっとあふれる甘酸っぱさなどがダシの風味の中で輝く。

「八寸」。石川子芋、蚕豆、茱萸の甘煮、太刀魚の塩焼き、蒸しだこ、サザエとインゲンのトリュフバター炒め、伏見唐辛子、青梅の蜜煮。

カウンター仕立ての個室は2名用、もうひとつは4名まで。十分なサービスのために、客席は小さく構えた。

おくゆかしい造り、おくゆかしい人柄。なれど『御料理 寺沢』の料理は、緻密にして果断だ。

手に入り得る限りの上質な素材を購い、活かしきるために、基本的に2名以上での来店、2日前までの予約をゲストに願う。小体な個室がふたつ、実質昼夜合わせてそれぞれ2組ずつとやや緊張感を帯びる舞台立てではあるが、ひとたび席に着けば時ごとに心がほぐれていくのは、寺沢さん夫妻のあたたかな気遣いが満ちているからだろう。キンと冷えた「酔右衛門」や「鷲の尾」で喉を潤した頃に登場した先付は、蓮葉の上の水鞠のように寄せられた蒸し鮑と車海老、ウニ、生湯葉、焼きトマト、キャビア。鰹ダシのジュレをまとい、姿も味わいもきらきらと輝く。お凌ぎには穴子の蒸しずし。ふっくらと温かくまろやかな赤酢の酢飯にふかふかの穴子、甘み優しきツメの風味が梅雨冷を忘れさせる。

三陸産の太刀魚、石川子芋、梅肉をのせた蒸しだこ、甘く炊いた茱萸、青梅の蜜煮などを寄せ、ひとつひとつ丁寧に磨き込んだ料理のパーツで連関する大きな味わいの絵を描き出した八寸は、『御料理 寺沢』の真骨頂ともいうべきひと皿だろう。サザエとインゲンをトリュフバター炒めにした一品も、この八寸に明るいアクセントを置いている。

ここ北上に暖簾を掲げて9年。全国から人の通う名店と呼ばれてなお、寺沢さんは「未だ挑戦の途中です」と言う。もっと良き素材を探し、良き仕立てを編み出し、楽しんでほしい。その貪欲さが、謙虚さを生むのだろう。

御料理 寺沢(おりょうり てらさわ)

住所
岩手県北上市大通り4-4-3
電話
0197-72-7708
時間
11:30~、18:00~※2日前までの完全予約制(2ヵ月前より予約受付)
休日
不定休
5.『Badalone』(花巻市)

花巻の豊饒、その開拓者にして伝道者

「山地酪農牛のグリル」。ドリンクは花巻エリアで醸したワインや日本酒、ヴァン・ナチュールなどを豊富にラインナップ。

「三陸イワシのベッカフィーコ 香草パン粉焼き」。「高橋葡萄園」の「リースリング・リオン」とともに。

「食材や調理法の好き嫌いはもちろん、“小さいポーションで”とか、“今日は日本酒に合わせたお料理で”など、ご希望があればお気軽にどうぞ」と弥江さん。

 昼夜それぞれ1日1組のみ、メニューはペアリングドリンクを含めたおまかせのワンコースのみ。そう聞けば、ハードルの高い店だと思うかもしれない。しかし『バダローネ』のそのハードルは、でき得る限りのおいしさと楽しさをゲストに味わってほしい、という真摯さの現れだ。
花巻の良質な食材や酒、お茶や加工品を、それを生み出す人々の人柄ごと伝えたい。それが清水正康さん・弥江さん夫妻が『バダローネ』に託したテーマ。ふたり、日常的に生産者の畑や蔵を訪ねては作業を手伝い、ともに食べ、話す。おいしさのために生産者がどれだけ努力しているかを知っているから、余さず料理したいし、食べてほしいのだ。
「和み農園」の新じゃがと平飼い有精卵を使ったポテトサラダは、ほくほくの新じゃがと自然な旨みのポーチドエッグがとけあうひと皿。「とおの屋 要」のどぶ酢、白金豚のベーコンも味わいのまとまりを後押ししている。田野畑村の山地酪農ビーフは、その生育環境の恩恵か赤身の肉に穏やかなハーブ香のようなものが備わっており、噛みしめるとその風味の良さに驚くだろう。「くずまきワイン」の山ぶどう原液と「佐藤ぶどう園」のぶどうジュース、雫石の「焙茶工房しゃおしゃん」の自然栽培・自家焙煎ウーロン茶を合わせたオリジナルドリンクが、もうひとつのソースのように肉の旨みを包み込む。
好き嫌いはもちろん、要望はできるだけお伝えあれ。ここは、ゲストに合わせてオーダーメイドのコースを創造してくれる「注文の多い料理店」なのだから。

Badalone(バダローネ)

住所
岩手県花巻市大通り1-5-12
電話
予約はホームページより ※1日昼夜各1組限定の完全予約制
時間
11:00〜14:00(13:00ラスト入店)、17:00〜21:00(19:00ラスト入店)
WEB
http://badalone.jp/
6.おのひづめ(遠野市)

遠野の魂を、ストイックに、かつチャーミングに。

「今日のチーズ、1ヵ月後のチーズ、焼いたトマトとチーズのサラダ」。今日のチーズに添えられたのは、自家製の牛のブレザオーラ。

「山田湾の牡蠣の白ワイン煮込み」。香ばしいキャベツの風味も実にいい相性。作りきれない素材は菅田さんが共感するポリシーを有した生産者から購う。

南部鉄の鉄瓶や火鉢、木製の衝立など味のある生活骨董を現役遣いに。

 畑を耕し、牛を飼い、菅田幹郎さんは料理する。その大変さを労うと、彼はそれがしたくてレストランをやっているのだ、と笑った。
ひと匙のチーズ。それは、菅田さんが育てるジャージー牛のナイトミルクで作ったフロマージュ・フレ。牛がリラックスしている夜の間に搾った生乳は、栄養価も高く濃さもひときわ。ミルクがチーズに成り代わるその一瞬を掬ったような味わい、モッツアレラ手前のとろもち感はまさに初体験のおいしさ。その下に敷かれたひと切れのチーズは、このフロマージュ・フレを1ヵ月寝かせて熟成させたもの。この2つのピースで生乳のうまさと時の経過を、焼いたトマトと合わせたサラダで調理による広がりを楽しむひと皿だ。このミルクのおいしさは「牡蠣の白ワイン煮込み」にも。3年ものの大きな牡蠣を生乳と白ワインとでさっと煮込み、キャベツと合わせてオーブンへ。ふっくらぷるぷると牡蠣の濃いミネラル感、ミルキーさをワインと生乳のミネラル感、ミルキーさで多元的に膨らませる。
カルネの仔鹿をローストしながら、菅田さんは言う。「この鹿も、畑や牧場のすぐ側まで来て駆除されたもの。駆除は必要なものだからこそ、そこで終わりではなくおいしく味わうまでをひとつの流れにしたい。遠野を、昔話の里だけでなく食の物語の里にしたいんです」

おのひづめ

住所
岩手県遠野市新穀町2-1
電話
0198-66-3443 
時間
12:00~14:00、18:00~21:00
休日
日曜(日・月曜連休の場合は日曜営業、月曜休み)
WEB
https://restaurant-88307.business.site/

記事の内容はKappo119号(2022年8月5日発売)掲載の情報です。
営業時間等は変更の可能性があります。

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