TEXT=佐々木綾
PHOTO=小野寺真希(fog)
長年暮らした秋田から仙台へと移り住み、ふたりの時間が増えたことで日常を楽しむ時間が増えたbonさんponさん。宮城の気になる場所へ出かけて、新たな魅力を発掘しています。今回は塩竈市の『塩竈市杉村惇美術館』を訪ねました。
写真や動画で世界中の人とつながることができるSNS「Instagram」で人気の“理想の夫婦”。夫bonさんの定年退職後、秋田から仙台に移り住み、第2の人生を満喫中。
JR仙石線本塩釜駅から徒歩10分ほど。港町を一望する小高い丘にあるのが『塩竈市杉村惇美術館』だ。昭和25年建造の『塩竈市公民館本町分室』をリノベーションした建物は、市有形文化財に指定された貴重な文化資源。平成26年の改修で一部が美術館となった今は、公民館としての機能も担いながら、若手アーティスト支援プログラムや地域住民向けのワークショップにも取り組むなど、文化交流の場となっている。そうした地域との結びつきが評価され、2019年度の地域創造大賞(総務大臣賞)を受賞した。
こちらを訪れるのは初めてというふたり。建築当初の姿を残している館内の設えを一つひとつ確かめながら、板張りの階段を上がる。2階の常設展示室に並ぶのは、塩竈ゆかりの洋画家・杉村惇氏の作品。塩竈に疎開した杉村氏は、塩竈の風景や港に揚がる新鮮な魚などを数多く描いている。ダイナミックで力強い描写はもちろんのこと、年代による作風の変化も楽しみの一つ。ponさんが「これはちょっと雰囲気が違いますね」と気になった絵は、晩年の作品。なるほど、東洋画の墨色に憧れ、黒を基調としていた塩竈に移り住んだ当初の作品に比べて、彩りが加わり明るくなった印象だ。さらに杉村氏の作品の魅力は、ユニークなモチーフにもある。古いランプやグラス、酒瓶などを好んで集めていた杉村氏。アトリエを再現したコーナーには、それらも一緒に置かれている。「好きなものがちょっと似ている」とponさんは親しみを感じたようだ。鑑賞後は隣のサロンでひと休み。塩竈の歴史に触れる資料を眺めた後は、乾漆ピースを組み合わせて作る「乾漆ブローチ」の体験も楽しんだ。
再び1階に下りたふたりは、渡り廊下の先にある大講堂へ。高さ9.7m、ゆるやかなアーチで構成された大空間は、建築としての美しさはさることながら残響も美しく、コンサートなども開催されている。市民にも貸し出しているため、ここで地域の方が健康体操やダンスの練習をすることもあると聞いたbonさんは「贅沢な使い方ですね、羨ましい」と笑う。最後は玄関ホール横にある『塩竈本町談話室』でコーヒー片手に語らうふたり。窓の外に見えるのはエドヒガンザクラ。この日は寒の戻りで肌寒く、花開く気配もなかった蕾だが、そろそろ桜の便りが届きはじめる頃。「暖かくなったらまた来たいね。今度は駅から散歩しながら」とbonさん。ふたりが待ちわびる春はもうそこまでやって来ている。
■ Kappo 2020年5月号 vol.105 ■
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