TEXT=小林薫(編集部)
7月4日からスタートした「GIGA・MANGA 江戸戯画から近代漫画へ」展。“漫画”というワードは老若男女問わず愛され、いまや世界共通語とも言えるほどの地位を築いています。でも、漫画は昔から今の形で存在していたわけではない! そんな変遷がわかりやすく解説されています。
チケットを購入して会場へと足をすすめると、まず目に飛び込んでくるのが展示室手前の大きなフォトスポット。桃太郎の一員になって、写真を撮りましょう。
この展覧会を監修している清水勲氏は、印刷出版文化が発達した江戸時代の戯画を、現代日本で認識されている漫画的な表現の出発点と考えていらっしゃいます。戯画の誕生までは、お金を出して画家に直接オーダーして描いてもらうスタイルが基本。お金持ちでしか絵画には触れられなかったのですが、木版画技術が向上し、版画や浮世絵が安価な値段で販売されたことにより、庶民の手が届くようになったからです。
ちなみに、戯画という言葉には誇張や風刺を含んで描いた滑稽な絵、という意味があります。
そのような歴史の背景から、展示は木版画や浮世絵からスタート。
中でも、江戸時代末期に活躍した浮世絵師、歌川国芳の作品がどれもおもしろく、くすりとさせられるものばかり。《浮世よしづ久志》は、よーく見ると世間にあふれるいろんな“よし”が言葉とともに描かれています。例えば、ハイハイする赤ちゃんは「きげんよし」。きれいな女性に声をかけられたのでしょうか、頬を赤らめた男性のそばには「ゆめでもよし」。そろばんを弾く男性は「くら入よし(蔵入りよし)」。他にも、「うん(運)がよし」「きだてよし」はたまた「なんでもよし」「ずっとよし」まで。見ているだけでポジティブになれる1枚です。
この歌川国芳という人、とにかくいろいろな仕掛けを施した絵を残しています。《みかけハこハゐがとんだいい人だ》は、ぱっと見ると男性が怒っているかのように見えますが、よくみるとたくさんの人が集合しているのです。滑稽なポーズや表情も見どころ。
さらに人の左上には「大ぜいの人がよってたかってふといゝ人をこしらへた とかく人のことハ人にしてもらハねバゝ人にならぬ」なんて、教訓のような一文が描いてあります。
考えさせられるものがありますね。
さらに、北斎漫画・すずめ踊りの動きを描いたページを実際にコマ送りしている映像があったり、河鍋暁斎や歌川広重など、名絵師たちの浮世絵が目白押しです。
明治になると、新聞や雑誌といった媒体が誕生します。江戸時代の戯画が挿絵になり、漫画へと姿を変えていく流れがわかります。媒体の特性上、ジャーナリズムを主とした内容なので、挿絵や漫画も風刺的。じっくり見ると「うーん、なるほど」と思わずニヤリとしてしまいます。
北沢楽天や宮武外骨、後半になると岡本一平らの作品が登場します。
写真の『お伽 正チャンの冒険』は、アサヒグラフで連載されていた人気漫画。お伽の国を冒険する、ファンタジーです。ほかにも、「のらくろ」が展示されていました。
さらに、出口近くには「出張 石ノ森萬画館」コーナーがあり、宮城を代表する漫画家・石ノ森章太郎の軌跡を作品とともに紹介しています。
私がおじゃましたのは、前期展示の最終日、8月2日。4日からは後期展示となり、一部作品が入れ替わっていますので、お気をつけて。
敷地内にある「今野家住宅」を含め、それぞれの展示室ごとに入場人数の定員があります。展示室内も広いので、密になることはなかなか起こりにくいはず。
今回は細かな文字やくずし字を読みたくなるような作品ばかりで、じっくりと時間をかけて鑑賞する作品が多いため、先に鑑賞している人がいたら、その人が見終わるまで自然と待ちたくなると思います。
ご自身でも感染対策を講じながら、戯画から漫画への変遷をたどってみてください。