写真=菊地淳智 TEXT=菅原ケンイチ
仙台市在住のライター、ブロガー。
「本当にうまいそばの名店 宮城」企画・執筆。そばとラーメンの食べ歩きはライフワークで「本当にうまいそばの名店 山形」「本当にうまい宮城のラーメン」も企画・執筆。ツイッター、インスタグラム、noteでそばとラーメンに関する情報などを発信中。
※2022年9月25日発行『本当にうまいそばの名店 宮城』より転載しています。
仙台で正統の二八そばを提供し続けている老舗の名店『康正庵』。昔から「そばは二八に始まり二八に終わる」との言葉があり、極めれば最後は二八にたどり着くともいわれる。二八そばはそれほど奥深いものだが、「二八はそばの醍醐味であるのどごしのよさ、いつまでも食べ飽きない味、そして種物(温かいそば)でも伸びにくいのが魅力ですね」と店主の大内康正さん。つまり、仮に五角形のレーダーチャートにしたとき、どの項目でも好ポイントの、バランスのいい形になるのが二八そばといえるだろう。近頃は十割を一番とする風潮も一部あるが、そう単純なものではない。
その『康正庵』で十割そばの提供を始めていると聞き、二八を極めた店で出す十割はどんなものなのだろうという期待感を持った。そして大内さんの打った十割は、二八と変わらない姿をしたこの店独自の見事なものだった。幅がおよそ1.5mmという細さながら、切れていない美しい麺線と、十割とは思えないしなやかさがあり、そばの風味とのどごしの両立が何とも素晴らしい。
「今日は二八より細くなってしまいました」と大内さんが笑う。大内さんは難しいとされる細麺の十割を、こともなげに打っているのである。二八をそばの最高点と考える大内さんは、十割にも二八の持ち味を体現させているのである。
店では本枯節と亀節でだしを取り、かつお節は毎朝削っている。つゆはだしとかえしのバランスがよく、辛めながらまろやかなものだ。関東よりは辛さを控えたというが、まだ辛めなので、そばはちょん付けしてすするべし。それがこのそばを一番おいしく食べる方法なのである。
『康正庵』は宮城県で手打ちそばが出始めた時代に開業した。そばの系譜は『一茶庵』の流れである。一茶庵とは栃木の足利に本店を持ち、3代前の片倉康雄氏は、機械打ち一辺倒になっていた日本に手打ちのそばを復活させた功労者である。大内さんはその片倉康雄氏の息子の英晴氏のもとでそばを覚えた。
二八とともに一茶庵系のもう一つの特徴が「更科そば」である。『康正庵』で「しらゆき」と呼んでいるこのそばは、一番粉(そばの実の中心部分の粉)のみを使ったもので、白く上品で独特の強いコシがあり、のどごしがいいのが特徴だ。
更科はその特徴を生かし、ゆずやしそなどその時々の素材を練り込み、色と香りで季節を楽しむ「変わりそば」にもされる。のどごしよくさわやかな味わいの変わりそばには、根強いファンも多い。そして二八や田舎などと盛り合わせる「三色そば」もあり、店にこのメニューがあればその店は一茶庵系統であることが多い。
最近は粗挽き十割など野趣あふれるそばも出ているが、『康正庵』のそばはあくまでも繊細で品がいい。
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・天せいろ2200円
・つけ鴨せいろ1820円
・鴨南ばん1820円
・しらゆき1200円
●つなぎの配合とそばの太さ
二八/細・十割/細
●製粉
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