Kappo 仙台闊歩

FOOD 2023.08.02

【そばライター菅原ケンイチさんおすすめ】 そばの名店 宮城④ 仙台市太白区向山 『鹿落堂』

写真=菊地淳智 TEXT=菅原ケンイチ

大人のためのプレミアムマガジン『Kappo 仙台闊歩』の特別編集版『本当にうまいそばの名店 宮城』。そばライター菅原ケンイチさんが厳選した宮城のそば店をご紹介していきます。食べ歩きの参考にしてください。

PROFILE

菅原ケンイチ

仙台市在住のライター、ブロガー。

「本当にうまいそばの名店 宮城」企画・執筆。そばとラーメンの食べ歩きはライフワークで「本当にうまいそばの名店 山形」「本当にうまい宮城のラーメン」も企画・執筆。ツイッター、インスタグラム、noteでそばとラーメンに関する情報などを発信中。

Twitter
instagram
note

粗挽き十割の進化系 共鳴する洗練と野趣

※2022年9月25日発行『本当にうまいそばの名店 宮城』より転載しています。

太白区の向山から瑞鳳殿に向かう途中の鹿落沢。坂の脇にはかつて鹿落旅館があったのだが震災で倒壊し、現在はそばと甘味の店『鹿落堂』がその場所にある。鹿落堂の店舗はこの場所を意識してデザインされたもので、吹き抜け全面の窓から広瀬川と仙台の街並みが見えるロケーションが素晴らしい。

店主の兵藤さんは、以前は他ジャンルの料理人だった人。もともとそばが好きで食べ歩きをしているとき、岩出山の『愉多工房』の、粗挽きの十割でありながら細くてのどごしがいいという「革命的な」そばに感銘し、そば店への転向を決めたのだそう。そば打ちなどは愉多工房店主の芳賀さんに教えをもらい、自ら試行錯誤を繰り返して現在のそばを確立させた。

店で提供するそばは、鳴子川渡(かわたび)産の「信濃1号」という品種。「信濃1号は味が濃いのが特徴です」と兵藤さんが話す。これを店に置いている電動の石臼で結構な粗挽きに製粉する。製粉やそば打ちを行う作業場は店の1階にあり、ガラス越しに中が見えるようになっている。

粗挽きの十割は加水率約60%と、愉多工房仕込みの特殊な打ち方をする。通常よりかなり水が多いので、慎重な扱いをしないとそばが切れてしまうのだ。そして時期によって変わるそばの実の状態や、石臼の目の状態の違いで製粉が微妙に変わるので、それに合わせて打ち方を調整しているという。

一方、店では二八のそばも提供している。二八は殻をむいた丸抜きでの製粉と、製粉方法が違う。こちらはのどごしのいいのが持ち味で、十割と比べ、温かいそばでも伸びにくい特徴がある。

そばは食感が命であり、ゆで加減でそばの味が決まるといってもいいほどだ。時間にしてもわずか数秒で違ってしまう。「そのためにはそばを打った人が茹でるのが一番なんです」と兵藤さんは話す。

「十割そば」1100円。粉は鳴子川渡産の信濃1号を玄そばで挽いたもの。結構な粗挽きなのでそばの肌がでこぼこしており、透明感がある。もっちりとした食感で、かみすすめるとそばの甘みが口の中にじわじわやってくる。つゆのほかにフランスの「ゲランドの塩」でも味わえる。薬味は辛み大根と新潟のかんずり、わさび。食べ終わってからも口の中に続く余韻が素晴らしい。

「鴨せいろ(二八)」1700円。二八のそばはのどごしを重視しているので、少し細く打っている。鴨は京鴨(合鴨)を使っており、低温調理しているので味と食感の両方が味わえる。汁には鴨の手羽元のだしが加わっており、そばつゆと鴨のうまみの合体はある意味最強だ。

「甘味御膳(煎茶つき)」980円。店のもうひとつの顔が甘味で、これはわらびもちとあんみつのセット。甘さを控えた自家製のわらびもちには、国産大豆の深煎りきな粉がたっぷりかかっている。あんみつは昔ながらのビジュアルのもので、自家製の粒あん、抹茶アイス、寒天、豆に果物。沖縄産黒糖の黒蜜をかけていただく。

取材時には作業場で製粉の様子も見せてもらった。殻付きの玄そばでは殻に汚れがついているので、「磨き」という作業をする。これは川渡の生産者が行っているのだが、兵藤さんはそばに雑味を入れたくないので、店でもう一度磨きをかけている。

石臼の製粉では上石の縦穴を通して原料が2つの石の合わせ目に送られる。そして上の石を回し、両面に刻まれている溝でそばを摺りつぶす仕組みになっている。石臼は摺りによってでる熱が少ないので、そばの風味を逃がさないメリットがあるが、多くの店ではさらに回転をゆっくりさせている。溝は幾何学的な模様になっており、そばが外に押し出されてゆくような溝の配置になっている。『鹿落堂』の石臼は栗駒産の安山岩だが、石の材質の違いや目(溝)の状態によっても、出来る粉が微妙に違うという。

そばのつゆは、だしに、枯節のかつお、昆布、煮干し、しいたけを使っている。材料の種類が多いと味がまとまらない懸念もあるのだが、兵藤さんは調和を大事にしているといい、うまみが一体化したバランスのいいつゆとなっている。しいたけは独特の味が前に出てしまいがちなのだが、これも全く感じることがなく、昆布のうまみが乗った見事なつゆだ。十割そばではだしの材料を絞り込んですっきりさせることが多いが、二八や温かいそばにもあうような組み合わせにしているという。つゆがやや辛めなのは多くの店と同じだが、ここでは薬味の辛味大根を入れることも考慮しているという。

店の食材の多くは宮城産。「それらは宮城の誇りですし、地産地消が一番おいしいと思っています」と兵藤さんは話す。

1階作業場の一角に電動石臼が置いてある。製粉は殻ごとの一回挽き。出てきた粉には殻も混じっており、これをふるいにかけて必要な部分の粉だけを取り出す。

鳴子川渡産の玄そば。玄そばは川渡の生産者が低温保管しており、店で必要な都度取りに行っている。

店には兵藤さんが集めた、趣味のいいデザインの、暮らしの道具を展示販売しているコーナーがある。

これもおすすめ

・自家製粉十割蕎麦御膳2100
・二八かき揚げ蕎麦1500
・自家製粉そば粉のガレット各種1300
・わらびもち(煎茶つき)840

●つなぎの配合とそばの太さ
二八/中細、十割/中太

●製粉
自家製粉

鹿落堂

住所
仙台市太白区向山1-1-1
電話
022-395-8074
時間
蕎麦時間 11:00~15:00(LO14:30) 甘味時間 15:00~17:00(LO16:30)
休日
金曜
WEB
https://www.shishiochido.com/
備考
駐車場/10台 席数/カウンター16席、テーブル24席、テラス16席 開業/平成29年4月

仙台市太白区『鹿落堂』が載っているのはこの本です。

そばライターが230店を実食して選んだ70の名店。大幅改訂初掲載17店。Kappo特別編集『本当にうまいそばの名店 宮城』好評発売中。宮城県内の書店、Amazonマチモールほかで発売中。

BACK TO LIST
【そばライター菅原ケンイチさんおすすめ】 そばの名店 宮城③ 仙台市青葉区中山 『手打ちそば 康正庵』前の記事へ
東北、肉料理の名店へ【Kappo2023年9月号】次の記事へ