Kappo 仙台闊歩

FOOD 2023.07.31

【そばライター菅原ケンイチさんおすすめ】 そばの名店 宮城③ 仙台市青葉区中山 『手打ちそば 康正庵』

写真=菊地淳智 TEXT=菅原ケンイチ

大人のためのプレミアムマガジン『Kappo 仙台闊歩』の特別編集版『本当にうまいそばの名店 宮城』。そばライター菅原ケンイチさんが厳選した宮城のそば店をご紹介していきます。食べ歩きの参考にしてください。

PROFILE

菅原ケンイチ

仙台市在住のライター、ブロガー。

「本当にうまいそばの名店 宮城」企画・執筆。そばとラーメンの食べ歩きはライフワークで「本当にうまいそばの名店 山形」「本当にうまい宮城のラーメン」も企画・執筆。ツイッター、インスタグラム、noteでそばとラーメンに関する情報などを発信中。

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「一茶庵」流の二八そばと のどごしの見事な十割

そばを打つ大内さん。そばはうどんと違って切れやすい性質がある。その繊細な生地を、綿棒の加減で厚さ1~2mmまで伸ばす。しかも厚さが均一でなければ、切ったときそばの太さにばらつきが出てしまうのだ。そば生地は乾きやすいので、この作業を素早く行わなければならない。大内さんはプロの中でも卓抜した名人といえる。

※2022年9月25日発行『本当にうまいそばの名店 宮城』より転載しています。

仙台で正統の二八そばを提供し続けている老舗の名店『康正庵』。昔から「そばは二八に始まり二八に終わる」との言葉があり、極めれば最後は二八にたどり着くともいわれる。二八そばはそれほど奥深いものだが、「二八はそばの醍醐味であるのどごしのよさ、いつまでも食べ飽きない味、そして種物(温かいそば)でも伸びにくいのが魅力ですね」と店主の大内康正さん。つまり、仮に五角形のレーダーチャートにしたとき、どの項目でも好ポイントの、バランスのいい形になるのが二八そばといえるだろう。近頃は十割を一番とする風潮も一部あるが、そう単純なものではない。

その『康正庵』で十割そばの提供を始めていると聞き、二八を極めた店で出す十割はどんなものなのだろうという期待感を持った。そして大内さんの打った十割は、二八と変わらない姿をしたこの店独自の見事なものだった。幅がおよそ1.5mmという細さながら、切れていない美しい麺線と、十割とは思えないしなやかさがあり、そばの風味とのどごしの両立が何とも素晴らしい。

「今日は二八より細くなってしまいました」と大内さんが笑う。大内さんは難しいとされる細麺の十割を、こともなげに打っているのである。二八をそばの最高点と考える大内さんは、十割にも二八の持ち味を体現させているのである。

店では本枯節と亀節でだしを取り、かつお節は毎朝削っている。つゆはだしとかえしのバランスがよく、辛めながらまろやかなものだ。関東よりは辛さを控えたというが、まだ辛めなので、そばはちょん付けしてすするべし。それがこのそばを一番おいしく食べる方法なのである。

「十割そば」1100円(手前がせいろ、奥が田舎)。十割は令和3年から提供を始めた。どちらものどごしがよく、特に田舎では風味が際立っている。太さはこれまでの二八とほぼ同じ。十割でこの細さとつながりは、見事というほかない。「そば打ちでの水回しが大事で、田舎では甘皮部の粉がある分、逆にまとまりやすいんです」と大内さん。現在は数量限定で提供している。

「せいろ」880円。見事な細打ちの二八。店看板の逸品。

『康正庵』は宮城県で手打ちそばが出始めた時代に開業した。そばの系譜は『一茶庵』の流れである。一茶庵とは栃木の足利に本店を持ち、3代前の片倉康雄氏は、機械打ち一辺倒になっていた日本に手打ちのそばを復活させた功労者である。大内さんはその片倉康雄氏の息子の英晴氏のもとでそばを覚えた。

二八とともに一茶庵系のもう一つの特徴が「更科そば」である。『康正庵』で「しらゆき」と呼んでいるこのそばは、一番粉(そばの実の中心部分の粉)のみを使ったもので、白く上品で独特の強いコシがあり、のどごしがいいのが特徴だ。

更科はその特徴を生かし、ゆずやしそなどその時々の素材を練り込み、色と香りで季節を楽しむ「変わりそば」にもされる。のどごしよくさわやかな味わいの変わりそばには、根強いファンも多い。そして二八や田舎などと盛り合わせる「三色そば」もあり、店にこのメニューがあればその店は一茶庵系統であることが多い。

最近は粗挽き十割など野趣あふれるそばも出ているが、『康正庵』のそばはあくまでも繊細で品がいい。

「三色もり」1430円。奥から田舎、せいろ、変わりそば。写真の変わりそばは青ゆず。更科であるしらゆきに季節のものを練りこんだそばで、桜、抹茶、ゆず、しそ、けしなども使われる。

「特選天ぷら盛り合わせ」3080円。海老は活の車海老であり、そば屋ではまずなく、天ぷら専門店でもなかなか使われないほどの高級品。身の甘さが際立ち、頭部の海老みそが後に引くうまさ。

店の奥には落ち着いた座敷が。床の間の掛け軸は季節ごとに変わる。

これもおすすめ

・天せいろ2200
・つけ鴨せいろ1820
・鴨南ばん1820
・しらゆき1200

●つなぎの配合とそばの太さ
二八/細・十割/

●製粉
非公開

手打ちそば 康正庵

住所
仙台市青葉区中山6-1-3
電話
022-279-4003
時間
11:30~14:30、17:30~20:00(そばがなくなり次第終了)
休日
月曜(祝日の場合は昼のみ営業)
WEB
https://koshoan.jp/
備考
駐車場/6台 席/テーブル8席、小上り8席 開行/昭和62年9月 

仙台市青葉区『手打ちそば 康正庵』が載っているのはこの本です。

そばライターが230店を実食して選んだ70の名店。大幅改訂初掲載17店。Kappo特別編集『本当にうまいそばの名店 宮城』好評発売中。宮城県内の書店、Amazonマチモールほかで発売中。

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