TEXT=鮫島雄一(編集部) PHOTO=齋藤太一

モエレ沼公園
仙台空港から新千歳空港まで飛行機で1時間余り。
宮城県民にとって北海道は、陸路で隣県へ遠出するよりも気軽に旅ができる身近な観光地である。
同じ北国に括られてはいるが、広大な大地が織りなす壮大なスケールの絶景や、独自の歴史から育まれてきた文化は、東北とは似て非なるもの。
それをもっとも実感させてくれるのが冬の北海道だ。
長い冬を乗り越えるための暮らしの知恵やものづくりの工夫、寒さを楽しむ遊び心、白銀に包まれた静寂の大地で研ぎ澄まされる感性。そんな冬の北海道ならではの文化やグルメ、アートな風景との出合いを楽しむのが、今回の旅の目的。
訪れたのは白老・余市・札幌。
この3エリアには実は共通点がある。
それはそれぞれの土地で脈々と受け継がれる文化を根底に、新たなムーブメントが芽生
え始めていること。
歴史に学び新たな価値観を得る。
まさに温故知新な旅を通して、春を待つ北海道だからこそ巡り合える特別な体験を堪能してほしい。
じつは仙台藩と縁が深い白老町。この町のシンボルといえば、北海道に初めて開設されたアイヌ民族の文化や歴史を学ぶ拠点「ウポポイ」。豊かな自然に抱かれたポロト湖のほとりを舞台に、心解ける温かいもてなしとアイヌ文化の魅力に触れる。
新千歳空港から車で約40分。
苫小牧市と温泉で有名な登別市の間に挟まれた海沿いの街である白老町。
壮大な太平洋と雄大な山々に抱かれたこの町では、まるでコタン(村・集落)に招かれたようなアイヌ文化を体験できる温かなもてなしが待っていた。
アイヌ民族の伝統的な生活空間を体験できるコタン(村・集落)を再現。四季折々の暮らしや文化について知ることができる。
文化、伝統芸能、食、ものづくりに触れ
アイヌ民族の人々が今日まで送った時間を体感
『ウポポイ』は、日本の貴重な文化の一つでありながら存立の危機にあるアイヌ文化の復興、創造等の拠点となるナショナルセンター。
ポロト湖を抱く広大な施設には、先住民族アイヌを主題とした日本初の国立博物館「国立アイヌ民族博物館」や、体験交流ホール・体験学習館・伝統的コタン、工房などからなる体験型フィールドミュージアム「国立民族共生公園」などを内包。
博物館では展示を通して歴史を学び、公園ではアイヌ文化を実際に体験できる多様なプログラムを開催している。
『ウポポイ』での体験を通して心惹かれたのが、アイヌ民族の暮らしのあり方やものづくり、子どもたちの遊びに至るまで、どれもがこの大地で生きるための術に精通していること。
この土地に根差し、実直に生きるアイヌ民族からの学びや気づきは、自分たちの文化を見つめ直し、多文化共生について考えるきっかけを与えてくれる。
アイヌ民族の歴史や文化に関する正しい認識と理解を発信・促進する博物館。資料を元に職員が復元した展示品の精巧な作りも注目。
コタンでの暮らしの紹介と、歌や踊りの公演の様子。各回異なるテーマを取り上げており、風習など興味深い話を聞かせてくれる。
工房では木彫や刺繍など手仕事を見て、実際に作品に触れられる。刺繍体験やアイヌ民族の伝統楽器ムックリの演奏体験も評判。
住所/北海道白老郡白老町若草町2-3
☎0144・82・3914
開館時間/9:00~17:00(時季によって変動あり)
定休日/月曜(祝休日の場合は翌日以降の平日)※2/28~3/9は閉園
Ⓟ246台
入場料/大人1200円、高校生600円、中学生以下無料
カード/可
https://ainu-upopoy.jp
ポロト湖にせり出したように設計された、湯宿を象徴するとんがり湯小屋は、雪化粧した姿が幻想的。
ポロト湖畔を望むとんがり湯小屋の宿で
アイヌ民族の文化を追体験
『ウポポイ(民族共生象徴空間)』に隣接し、全客室からポロト湖を望める『界 ポロト』。
客室や食事、特別なプログラムを通して自然を愛し、共生してきたアイヌ民族の文化を感じられるのが魅力だ。
特筆すべきはとんがり屋根がシンボリックな「△湯」の泉質と景観のすばらしさ。
世界的に珍しい太古の植物由来の有機物を含んだ茶褐色が特徴の「モール温泉」が身体も心もほぐし、露天風呂ではまるでポロト湖や自然と一体となるような湯浴みが堪能できる。
ポロト湖が眼前に広がる露天風呂。冬は凍った湖面に雪が積もり真っ白な世界が広がる。
客室「□の間」では、アイヌ民族 の生活から着想を得たアート作品や紋様が随所に施されている。
住所/北海道白老郡白老町若草町1-1018-94
☎050・3134・8092
IN15:00/OUT12:00※4/1以降 IN14:30 /OUT11:00
料金/1泊1名3万1000円(2名1室利用時、夕朝食付き、税・サービス料込)
https://hoshinoresorts.com/ja/hotels/kaiporoto
史跡調査で発掘された資料や道具など約300点を展示。北方警備の歴史や陣屋での暮らしなどを伝える。
白老町と仙台藩の関係を紐解く
貴重な資料と遺跡がここに
幕末の時代、西欧列強からの蝦夷地侵攻を恐れた幕府は、東北各地の藩に道内の守備を命じた。
その号令を受け仙台藩が警衛の拠点となる陣屋を築いたのが白老町だった。
12年にわたる守備は戊辰戦争の勃発をきっかけに解体され、陣屋跡は地域住民によって大切に保護されてきた。
現在は良好な保存状態と歴史的価値の高さを活かし、仙台藩の活動や白老町との交流を伝えているのが『白老仙台藩陣屋跡資料館』。
その展示で仙台人ならなじみ深い文化や習わしに、白老町で出合えることがとても新鮮だ。
仙台藩元陣屋の歴史や知識の継承を目的に若者解説員の育成にも励んでいる。
今、ワイン生産地として日本はおろか世界中の愛好家たちが注目する余市町。そのムーブメントを牽引するワイナリー「ドメーヌ・タカヒコ」を訪ねるとともに、ワインと呼応するように発展を遂げる余市町のグルメシーンを巡る。
今、世界中のワイン愛好家や食通たちがごぞって足を運ぶ町がある。
それが余市町。
世界でも類を見ない、余市だからこそ生み出せる個性を持ったワイン造り。
それと共鳴するように進化するグルメシーン。
そんなワインと美食の最前線、余市町の今を知る。
農場やワイナリー見学は受け付けていないが、少し離れた場所にあ る、自由に利用できる展望台テラスから畑を一望できる。
大切にするのは余市だからこそ醸し出せる個性
ドメーヌ・タカヒコが切り開く、ワインの新たな地平線
1月初旬、札幌から余市へと向かう後志自動車道が通行止めになるほどの大雪に見舞われた日、ドメーヌ・タカヒコのワイナリーに到着したのは夕暮れ時だった。
一面雪に覆われたぶどう畑の前で出迎えてくれた曽我貴彦さんは畑を見ながら、「今年
は例年に比べて積雪が少ないんです。もう20㎝ぐらい積もってくれれば」と教えてくれた。
「じつは雪中で一定の温度を保ち寒波から樹を保護するのに積雪は重要なんですよ。この冬の環境こそ、ピノ・ノワールの農場としては世界的にみて稀な気候条件の中でも栽培を可能にしているんです」
農場を後にして案内してくれたのはワイン醸造所。
中に入ると2025年度に貯蔵されたばかりの樽がぎっしりと並べられていた。
「ぜひ香ってみてください」と、曽我さんはグラスを差し出してくれた。
香りのテイストはなんとも表現しがたく、鼻を近づけるたびに複雑に変化する。
それは味というよりも、情景が浮かぶような香りだった。
「例えば森の中に入ると、木々や植物、土などさまざまな香りを感じますよね。それと同じように私がワイン造りで表現したいのは、余市の自然や大地、移ろう四季が醸す多彩な香りや味わい。さまざまな要素が複雑に絡み合う味は、ここ余市でしか生み出せないワインの個性となっているんです」
曽我さんの話を聞いて、多くのワイン好きが余市を旅する理由がわかった気がする。
実際にこの町の豊かな自然に触れ、大地の空気を吸うことは、すなわちドメーヌ・タカヒコのワインを象徴する「旨み」の理解を深めることに繋がるのだと。
曽我貴彦さんのワイン作りの本質は農夫であること。雪に覆われたぶどう畑を見る曽我さんの眼差しから、その重要性が垣間見られた。
グラスに注がれたのは熟成の時を待つ「ナナツモリ ピノ・ノワール」。淡い香りの中からさまざまなニュアンスが感じられた。
シェフ自らが近所の山で採取してきたコウタケやアカヤマドリタケ、松の新芽、クルミを素材に創作した3種のアミューズ。余市の森のような美しい盛り付けに心躍る。
創作が光る美食とともに
余市のワインを楽しむホテル
ワインを求めて訪れる旅人から支持される余市駅前のホテル『Yoichi LOOP』。
ここで多くのゲストの心を射止めているのが、レストランで楽しめる美食とワインのコラボレーション。
名だたる星付きフレンチレストランで腕を磨いてきたシェフが、自ら山に入り採取した木の実や山菜、地元農家から直接仕入れる新鮮な野菜など、地の食材で創作するメニューは四季の恵みを感じられるものばかり。
独創的な料理と貴重な余市ワインのペアリングは、この町を訪れるならぜひ体験してほしいスペシャリティのひとつだ。
シェフの成田汐哉さんは29歳。四季を象徴する食材と若き感性によって生み出されるアートな一皿は、食への好奇心を存分に満たしてくる。
客室の中でも最上級のスタジオツイン。ダイニングキッチンや冬場は座敷にこたつを設けており、まるで自宅のようにくつろげる。
住所/北海道余市郡余市町黒川町4-123
☎0135・21・7722
IN15:00/OUT10:00
料金/素泊まり1泊7000円~、ディナーコース付き2万6800円~(共に2名1室利用時)
※レストランのみ利用可(要事前予約)
https://yoichiwine.co.jp
Wineshop&酒場
カウンターと大きなテーブルで構成されたアットホームな店内。併設したショップでは世界中から厳選したワインが揃う。
腕利きシェフの作る料理と
世界のワインをカジュアルに
イタリアの星付きレストランでスーシェフを務めた料理人が作る素晴らしいメニューと、国内外から揃えたナチュラルワインが気軽に楽しめる、ワインショップ併設のイタリアン酒場。
余市駅のすぐ横にあるので、旅前の腹ごしらえに美味しいランチを楽しんだり、夜はアンティパストとともにおすすめのワインを味わうなど、余市旅の止まり木として存分に活躍してくれる。
旬食材を活かした前菜からパスタなどのメインまで、気軽に楽しめるイタリアンと美味しいワインでもてなしてくれる。
住所/北海道余市郡余市町黒川町8-37
☎なし
営業時間/11:30~14:00(13:30LO)、17:00~22:00(21:30LO)
定休日/水・木曜
Ⓟなし カード/可
https://www.instagram.com/kihen_wine/
北の大都市・札幌の冬は、この時期でしか見られないアートな風景がたくさんある。注目すべきは街や自然と融和した日常に寄り添うアート。一面雪に覆われたモエレ沼公園をはじめ、冬にしか見られない感動の景観と出合う。
観光スポットに娯楽にグルメにと旅するには事欠かない札幌市は、雪まつりをはじめ冬を楽しむコンテンツが充実している街。
特に雪を纏った数々の名所は、いつもとは違ったアートな表情を見せてくれる。
この季節に旅するからこそ巡り合える、感動の光景を求めて雪の札幌へと繰り出した。
一面雪に覆われた広大な大地とどこまでも続く青空のコントラストは息を呑むほど美しい、冬だからこそ見られる特別な景色だ。
白く覆われたことでさらに美しく際立つ
自然とアートが融合したランドスケープ
日本を代表する彫刻家であり、プロダクトデザイナーや造園、作庭においても類稀な才能を発揮したイサム・ノグチ。
そんな彼が晩年に基本設計を手がけ、遺作となったモエレ沼公園。
これまで何度か足を運び、地形を丸ごとアートにした園内のランドスケープに感動させられてきたが、冬に訪れたのは今回が初めてだった。
7時の開園に合わせてモエレ沼公園に到着すると、そこには想像を超える絶景が待っていた。
足跡一つない真っ白な世界。
雪と青空のコントラスト。
積雪によって際立つモエレ山やプレイマウンテンの稜線と園内の美しい地形。
雪の中で存在感が浮き彫りとなったピラミッド。
目にするものすべてに感動を覚えるほど、どこを切り取っても絵になる光景が広がっていた。
緑のシーズンとは別世界が広がる冬のモエレ沼公園。
その感動的な光景は「公園全体がひとつの彫刻作品」というイサム・ノグチのデザインコンセプトを、より色濃く感じさせてくれるものだった。
モエレ沼公園のシンボルの一つであるピラミッドの雪と同化する姿も新鮮。館内の2階から望む一面銀世界の景色も圧巻。
実は冬の期間、モエレ山とプレイマウンテンではスキーやソリが楽しめる。ピラミッド内で板やブーツなどのレンタルも可能だ。
住所/北海道札幌市東区モエレ沼公園1-1
☎011・790・1231
開園時間/7:00~22:00(西口、南口ゲートは19:00閉門)
休園日/無休 Ⓟ1200台
https://moerenumapark.jp
野外美術館に入ると最初に出合えるシンボリックな2作品。(ウィグ/清水九兵衛、雪の牧場/新宮 晋)
雪とアートの共演を歩いて体感
野外美術館の冬だけの楽しみ
7.5 haという広大な敷地に、現代を代表する日本の彫刻家や作家を中心とした74作品を展示。
豊かな自然の中で彫刻作品を鑑賞できる『札幌芸術の森野外美術館』では、冬季のみの特別なアート体験が楽しめる。
それはかんじきを履いて雪を踏み鳴らしながら森を歩き、彫刻作品を見て回る「芸森かんじきウォーク」。
雪深い森を一歩一歩踏みしめながらルートを開拓して進むワクワク感や、白銀の中で存在感が際立つ彫刻作品の表情など、冬の自然を満喫しながらアート鑑賞がとても新鮮だ。
同敷地内にある『札幌芸術の森美術館』では、子どもから大人までアートに親しめる「0さいからのげいじゅつのもり」を開催中。
かんじきウォークは3月15日まで開催。かんじきは芸術の森センターの受付でレンタル可能。
住所/北海道札幌市南区芸術の森2-75
☎011・592・5111(代表)
開館時間/9:45~17:00(6~8月~17:30)
定休日/月曜※4/29~11/3は無休
野外美術館入館料/一般800円、 高大生400円、65歳以上640円、中学生以下無料
Ⓟ561台
https://artpark.or.jp
大きな窓から望む赤レンガ庁舎は、雪に赤いレンガがよく映える。冬季は夜になるとイルミネーションが灯り店内もより幻想的な雰囲気に。
札幌市の象徴を望みながら味わう
北海道の美味を楽しむ至極のフレンチ
創建から130年を超えるネオ・バロック様式の建築が特の北海道庁旧本庁舎。
街のシンボルとして市民に愛される赤レンガ庁舎を目の前に望めるのがこのレストランの魅力。
北海道で育まれる季節ごとの旬食材が主役のフレンチコースと札幌らしい美景を堪能する時間は、素敵な思い出として旅の記憶に刻まれる。
北海道の魅力的な食材を存分に満喫できるフレンチのコースと一緒に、世界中から厳選したワインとのペアリングが楽しめるのも醍醐味。
住所/北海道札幌市中央区北2条西4-2 赤れんがテラス3F
☎011・596・0868
営業時間/ランチ11:30~14:30(13:30LO)、ティータイム14:30~16:00(15:00LO)、ディナー17:30~22:00(20:00LO)
定休日/不定休 Ⓟなし カード/可
https://www.la-brique.jp
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