Kappo 仙台闊歩

CULTURE 2021.03.06

第4回仙台短編文学賞の大賞は、女川町出身の森川樹さんが書いた「海、とても」に決まりました。

大賞 「海、とても」  森川樹さん (46歳・兵庫県在住)

森川樹さん

<略歴>
1974年、宮城県女川町生まれ。尚絅女学院短期大学卒。被災後、女川町役場臨時職員などを経て、現在兵庫県在住

<あらすじ>
 東日本大震災がおきた時、伊藤恵美は高校生だった。震災で父親が経営する活魚運送の会社は廃業し、母親は10年経った今も行方不明のままだ。震災当時の気持ちに整理をつけられない恵美は町から離れられず、観光案内所で働いている。ある日、観光客の前で語り部の木村から恵美は被災体験を話すよう促された。恵美はそれを拒絶した。その晩、父親から活魚運送を再開すると聞かされる。翌日、託児で預かった男の子の言葉がきっかけで、恵美はこの町の住人や海がかけがえのないものだと気がつく。

<選考理由> 第4回選考委員 いとうせいこう
 被災した小さな町の時間を、傷と成長含め丁寧に描いている。ここには「被災」と「それを語り継ぐ困難」に関して普遍的なことが書かれており、しかも具体的なシーンによって新しい「あるべき未来」が提示されるのも小説らしい。

<受賞の言葉>
 震災を乗り越えるというのは、どういうことだろうか。失った大きさ、悲しみの形、傷の深さもそれぞれに違う。そして、私の「あの日」も未だ消化されないままだ。きっと、納得がいく答えはどこにもない。それでも、喪失感と向き合う人たちを伝えられたらと書き上げた。この作品が誰かの心に響いてくれたら、それが、一番、嬉しい。
 この度は、素晴らしい賞を頂き、本当にありがとうございます。恐縮しながらも喜びを噛みしめています。選考委員のいとうせいこうさま、実行委員会および関係者の皆さまに心より感謝いたします。

プレスアート賞 「月にかける」  東風谷香歩さん (33歳・福島県在住)

<略歴>
1988年、福島県生まれ。法政大学通信教育学部文学部日本文学学科卒業。会社員

<選考理由> プレスアート Kappo前編集長 梅津文代
 自分の絵に自信を失くした美大生が、ある女性から娘の花嫁姿を描いてほしいと依頼される。高校卒業の春に震災で亡くなった彼女は、生きていれば結婚して子どもがいても不思議ではない年齢だった。それぞれの被災体験と10年の歳月がもたらした心の変容をやさしく温かい筆致で捉えた。コロナ禍の現在を含めて素直に綴られており、胸に沁みる。ムカサリ絵馬をはじめ、随所に散りばめられたモチーフがタイトルに集約されていく構成も巧み。

<受賞のことば>
 十年という確かな年月の前に付くのが「もう」なのか、「まだ」なのか。あの日、かけがえのない存在を失くされたお一人、お一人の哀しみの様相と同じように、様々な感じ方、捉え方があるかと思います。
 しかしどれほど年月が過ぎようと、大切な人との思い出は決して風化しないと信じ、この小説を紡ぎました。最後になりましたが、実行委員会ならびに関係者の方々に心より御礼申し上げます。本当にありがとうございました。

POINT

大賞の「海、とても」、プレスアート賞「月にかける」は、 『Kappo 仙台闊歩』5月号(2021年4月5日発売)に掲載されます。

ほかに

仙台市長賞 「蛍」
本郷久美さん(62歳・埼玉県在住)

河北新報社賞 「骨」
時田日向さん(22歳・神奈川県在住)


※以下、学生対象

東北学院大学賞 「雑踏を奏でる」
茂木大地さん(22歳・仙台市在住)

東北学院大学賞奨励賞 「正解」
川上新さん(17歳・仙台市在住)

が、選ばれました。

詳細は公式ホームページをご覧ください
https://sendaitanpenbungak.wixsite.com/award/4th

 

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