写真=池上勇人 TEXT=編集部
Kappo2023年1月号・SCOPEで紹介した、2022年オープンのフランス料理店をご紹介します。
仙台城跡へと続く大橋の袂。西公園そばの閑静なエリアに『YEASTWEYL』はある。シェフの俵山陽介さんは、東京生まれの関東育ち。都内やイタリアのレストラン、国内のホテルで経験を積み、アメリカ・テネシー州の日本国総領事館で総料理長を務めた。2018年、奥さまの両親の地元・仙台に移住し、フレンチレストラン
『nacrée』を経て、2022年10月16日にこの店をオープン。
大都市圏よりも地方や自然に近い職場での料理人人生のほうが長いという俵山さん。「海があって山があって、ブランド牛もあるし、ここ最近はワイナリーも増えてきた。生産者、生産現場と物理的な距離が近く、宮城は料理をする人間にとって魅力的な場所。だけど、それを活かしきれていない土地だとも感じています」。すぐそばに海があり、山がある。テロワールにふさわしい場所であるにもかかわらず、西洋料理店は多くない。「諸外国、様々な地域に行きましたが、食材がいい土地には、その地域を代表するようなレストランがあります。流行を取り入れながら、その土地に根ざした食材を使った、モダンなレストラン。東北、宮城でなら、それができると思ったんです」
現在、昼は6皿前後、夜は10〜11皿のコース1本で提供。温菜「きのこのパテ・ショー」は、低温のオーブ
ンで長時間加熱し水分を脱いた「みやぎサーモン」を混ぜ込んだ、サーモンバターのために考案。アワビ茸、しいたけ、マッシュルームなど、東北各地で採れたきのこを、雪菜とパイ生地で包んだ。「ウリ科のソルベ」に添えられたムースは、東北を代表する酒蔵の酒粕と米麹を炊き、甘麹にしたもの。どちらも東北の旬を集約したかのようだ。「パッと見て、このひと皿にどんな食材が使われているのか興味を持ってもらいたい」というのは、諸外国の要人に向けて、日本の食材を調理してきた俵山さんだからこそ。ひと目で引き込まれる食材のプレゼンテーションには、目を見張るものがある。
店名には、様々な思いを込めた。一つは、英語の〝erstwhile〞。かつては、昔は、を意味し、様々な歴史を経た宮城、東北の今を表現し、未来につなげたい。もう一つは、人とのつながり、文化、観光、あるいは自治体そのものに、酵母菌(イースト)のように作用し、地域社会を活発化させる存在でありたい。さらには東北のEAST〞。東北に根ざし、東北から普遍的な価値や魅力を創造したいという思い。「これからもっとたくさんの食材と出会いたい」と話す俵山さん。いずれは東北への旅の目的地を予感させる、新しいレストランの誕生に心躍らずにはい
られない。