写真=齋藤太一 TEXT=工藤葵
東北には、銘柄牛、ブランド豚はもちろん、地鶏や羊、馬肉など、その肉を目的に訪れたい名店と、食文化があります。各県の生産者や専門店、料理人が込めた肉料理への思いを汲み取りながら、うまい肉を求めて、東北を旅してみませんか? 今回は、Kappo9月号から青森県五戸町の『尾形精肉店 五戸本店』をご紹介します。
藩政時代、馬の売買や交換、荷駄の運送に携わる馬喰が多く移住し、かつては町人町だったという五戸町博労町。
1947(昭和22)年、その地へ馬小屋を建てて競走馬の繁殖と育成を始めたのが、青森県において食用の馬肉を普及させたと言われる『尾形精肉店』だ。
馬肉を食べることがまだ一般的ではなかった時代、馬喰仲間たちが炉端を囲って食べていた馬肉で作る「桜鍋」の評判のよさをきっかけに、住居を改装して馬肉料理屋を開店。
1988(昭和63)年に現在の店舗を新築し、食用馬の肥育を行う自社牧場と精肉店の三本柱の事業を続けて、この地域に〝馬肉〞と
いう食文化を根付かせた。
同地域の食卓において馬肉料理が並ぶことは珍しくなく、今では鍋といえば「桜鍋」が定番になっている。
馬は、モツやスジに至るまで余す部位がないと言われているが、「心臓刺」や「馬タンの塩焼」といった同店ならではの珍しい献立を前にすると実に納得がいく。
「馬肉は鉄分が豊富で低カロリー。体調を整えたくて足を運ぶ方が多い」と話す3代目社長夫人の尾形千代子さんは、「馬肉を食べて元気になって、杖を忘れて帰った方もいるんですよ」とこっそり教えてくれた。
また、手塩にかけて食用馬を育てる一方で、その堆肥を有機肥料として稲作農家に配布。
その有機肥料で育った米の稲わらを馬の飼料として循環利用する地域にやさしい取り組みも、地元民に親しまれる魅力の一つなのだろう。