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CULTURE 2023.12.18

〈BOOK SPACE あらえみし〉スペシャルトーク 京極夏彦、仙台に現る!

文=千葉由香(荒蝦夷) 写真=荒蝦夷

POINT

最新刊『鵼の碑』(講談社ノベルス百鬼夜行シリーズ)が話題の京極夏彦さん。デビュー作『姑獲鳥の夏』(講談社文庫同シリーズ)から『遠巷説百物語』(角川文庫)をはじめとする「巷説百物語」シリーズなど、妖怪や怪異譚をちりばめた京極ワールドは多くの読者の心をつかんできた。そんなベストセラー作家が〈BOOK SPACE あらえみし〉の「角川ホラー文庫30周年&『怪と幽』13号刊行記念ホラー&お化け本フェア」のトークイベントに登場。お化けや妖怪に対する世間の反応、『遠野物語』にまつわる話、さらに東日本大震災と怪談の関係性など、90分語り尽くしたそのエッセンスを紹介する。 2023年6月10日・仙台フォーラス7階イーブンセンタースペース 主催/BOOK SPACE あらえみし

まずは日本唯一、お化けと妖怪の専門誌『怪と幽』の解説から。2011年誕生の本誌は、1997年に故・水木しげるさんの肝いりで角川書店(現・KADOKAWA)が創刊した妖怪マガジン『怪』と、2004年に文芸評論家・アンソロジストの東雅夫さんを編集長に迎えてメディアファクトリーから出た怪談文芸専門誌『幽』が1冊に合体したものだ。

世界妖怪協会・お化け友の会代表代行を務め、いずれの創刊にも関わった京極さんは、「妖怪と怪談は一見似ているけれど、同じ大豆で作る豆腐と納豆ほど違う。『怪と幽』はその二者をうまく融合させた雑誌」と語った。

遡れば『幽』の創刊以降、コワい話を書いたり語ったりするムーブメントが生まれた。今や〈実話怪談〉本が各版元から続々と発売され、怪談師を名乗る語り手も枚挙にいとまがない。一方、妖怪漫画を描き続けて国民的作家となった水木さんの故郷・鳥取県境港市では、100体超の妖怪の銅像を配した〈水木しげるロード〉が整備され、その妖怪観を伝える聖地として地域おこしの成功例となった。極めつけは柳田國男の『遠野物語』刊行100周年を迎えた2010年。

「水木さんが河童のかたるくん、座敷童、オシラサマのキャラクターを描いたんです。いずれも悲劇や没落といったイメージを持つのに、可愛くてロマンチックなキャラクターになったらたちまち全国各地で妖怪ウェルカムの雰囲気が生まれました。かつては地方に取材に行くとみなさんお化けや妖怪はちょっと……という反応だったのが、大きく変化した」。

そうしたところに登場した『怪と幽』。第13号は特集を「怪奇大特撮!」と掲げ、お化けと幽霊の間に生まれたヒーロー「カイトユウマン」を作り上げた。お化けの平和を守るため不埒者をやっつけるという設定のもと、特撮動画がYouTubeにアップされている。製作は妖怪造形家の天野行雄さん、テーマソングの作詞作曲・歌唱は妖怪好きライターの村上健司さん。

「カイトユウマンの背後には30年にならんとする『怪』と『幽』の歴史、そして我々がお化けや妖怪の普及推進に務めた歴史が結実しています!」。

ところで『遠野物語』とは、京極さんいわく、「フランスの自然主義文学に影響を受けた浪漫派の新体詩人・柳田國男が、お化け好きの泉鏡花に憧れた遠野出身の一青年・佐々木喜善から聞いた話を真実と信じ、注釈を加えることなく書いた」という構図。日本民俗学の文献とされ、三島由紀夫や芥川龍之介が評価したことによって文学的地位も得たが、何より〈実話怪談〉を生む契機となり、多様なジャンルに影響を与えたことは見逃せない。

東日本大震災後、2万人の死を体験した被災地では怪談が語られ始め、それを集める人も現れた。「不謹慎だという声も聞こえたけれど、地元で暮らしている人がそのように受け取めたのだから、しっかり聞くべきだと思った」という。

ただ、無数にありそうな怪談も構造的に分類すればいくつかのパターンがあるだけ。たとえば遠野は、海と山の交易の地だったのでさまざまな世間話が集まったが、とりたてて怪談の数が多いというわけでもない。豊かな物語が残るのは、積極的に語り継ぐ文化があったから。「遠野が市を挙げて語り部を養成している。口承を大切にした取り組みをきちんとしていることは応援したい」と語る。

ご自身も前述の「えほん」シリーズの他、『遠野物語』を口語文にして再構成した『遠野物語remix』(角川文庫)、柳田と思しき人物が準レギュラーとなっている「書楼弔堂」シリーズ(集英社)など、『遠野物語』を起点に多くの作品を生み出してきた。「巷説百物語」シリーズ第6弾『遠巷説百物語』は、『遠野物語』の約60年前にあたる江戸末期の遠野が舞台。「史実を軸に、柳田國男も佐々木喜善も生まれていない時代を書きたかった。登場人物を通して『遠野物語』とリンクしますから、これを読むと『遠野物語』の読み方がちょっと変わるかもしれません」。

デビュー作『姑獲鳥の夏』の主人公は古本屋。『絡新婦の理』にも『陰摩羅鬼の瑕』にも本屋や本が出てくるし、戯作者をめざす「巷説百物語」の主人公も本がたくさんある。「書楼弔堂」ときたら古本屋が舞台……。「なぜ本をたくさん持っている人の話ばかりなのか。そんな自分が嫌になる」と苦笑しつつ、本の流通システムが変革期にあることも触れた。問屋を通して全国均一に本がいきわたる従来のシステムが崩れ、町の本屋が減って身近な店で本を入手しづらくなっているのが現状だ。「本屋さんがなくなったら困るから、地元のリアル本屋さんでもっと本を買って応援しましょう」。

さらに、「面白くない本などない。面白くないと感じるのは読み手のせい」と持論を展開。

「急いで読んだりあらすじだけ読んだりして時間を端折る人生なんてつまらない。映画は10回行ったらお金を10回分払うけど、本は一度買えば何回読んでも1回分。しかも、いつでも読める。物語はその人が読むことで初めて成立します。人間は成長し、変化するから、同じ本でも後でまた読むと違う物語が立ち上がる。面白くなかった本も、いつかものすごく面白く感じる日が来るかもしれない。本は素晴らしいマジカルアイテム」と締めくくった。

 

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