Kappo 仙台闊歩

FOOD 2023.12.15

Kappo11月号『東北のワインの造り手に会う』特集、東北ワインを語ろう!座談会【後編】

構成・文=川元茂(編集部)
写真=池上勇人

POINT

※遅くなりましたが、Kappo2023年11月号「東北ワインの造り手に会う」に掲載した座談会の後編です。

Kappo2023年11月号「東北ワインの造り手に会う」特集は書店、アマゾン、マチモール等で発売中

・参加メンバー
菊池洋さん(グレープ・サウンズ代表/ワインインポーター&コンサルタント/パラゴニアンオーナー)

蜂谷優凛さん(ワイン担当/藤崎百貨店

松本圭介さん(シェフ/Keisuke Matsumoto

横山奈美さん(ソムリエ)

吉田勝信さん(シェフ&ソムリエ/ラトリエ・ドゥ・ヴィーブル

川野達子(Kappoライター)

小林薫(Kappo編集長)

川元茂(Kappoプロデューサー/司会)

10年を振り返って

川元 2013年に「東北ワインの実力」というテーマで特集を組みました。以来10年が過ぎ、東北にたくさんのワイナリーが誕生しました。当時の宮城県にワイナリーはなくて、山元町で活動していた毛利さん(現秋保ワイナリー代表)に会ったのもこの年でした。いま日本ワインはブームと言っていいと思いますが、その中で東北ワインはどういう位置づけにいるのか、どんな特色があるのか、可能性は?など、実際に醸造家を取材し、テロワールを感じてきた取材班とともに、ソムリエやシェフ、インポーター、販売店の方々を交えて、語り合っていきたいと思います。まずは自己紹介から。

横山 フリーのソムリエとして参加している横山です。イタリア料理店などに勤務し、最近まで秋保ワイナリーでソムリエをしていました。醸造にも携わっていたので、ワイン造りの視点でもお話できると思います。

吉田 本町の「日仏食堂 ラトリエ・ドゥ・ヴィーブル」のシェフをしています。好きが講じてソムリエの資格を取り、日本ワインに着目して10年以上取り扱ってきました。毎年北海道で収穫の手伝いをしたり、東北に限らず自分が好きなワインを選んで店で出しています。宮城のワイナリーも見させてもらっているので、課題なんかもお話できたらと思います。

菊池 グレープ・サウンズ代表の菊池です。ワインのコンサルティングビジネスの会社を経営しています。約35年間、ワイン業界に携わってきました。サントリーやキッコーマン、それから世界最大(年間出荷ケース数1億ケース以上)のアメリカのワイナリーE&J Gallo Wineryの仕事をさせていただいて、震災の前の年に地元の多賀城に戻ってきて、今の会社を設立しました。主にフランス、イタリアの生産者を中心に、日本のインポーターを探したり、逆に日本のインポーターから特定の国の特定のエリアの特定の品種のワインを探してきてくれという依頼があれば現地に行って探してきます。宮城や東北ワイナリーともいろいろと関わりがあり、実際に現地にも訪れていますので、ワイナリーの将来性や問題点をお話できればいいなと思ってます。

松本 2023年2月に青葉区柏木に「Keisuke Matsumoto」をオープンしました。酒のプロフェッショナルではないんですが、フランス料理歴35年で、うちフランス4年、シンガポール4年、料理をしてきましたので、シェフの視点で東北ワインを語れればと思います。

川元 昨年のKappo20周年イベントでは松本さんに東北ワインのペアリングディナーを作っていただいたのは記憶に新しいところです。

蜂谷 藤崎のワイン担当の蜂谷と申します。縁があって今の売り場に異動して5年半になります。藤崎にはいま日本ワインを約130銘柄置いています。輸入ワインの価格高騰があり、その観点からも日本ワインにもっと注目が集まるのではないかと思っております。弊社で開催するワインフェアを見ても、山形ワインバルを見ても、若い参加者が増えているので、飲み手が次の世代に移ってきていることを実感しています。なかでも東北ワインの売れ行きがよく、地元のワインを飲もうじゃないかっていう流れを強く感じます。

川元 10年前に比べて、買える手段は格段に増えました。藤崎の棚も充実していますし。各ワイナリーにはオンラインショップもあります。それでも実際に手に取って購入できるお店がもっともっと増えてほしいと思いますね。

 

※前編(Kappo202311月号の誌面)は山形ワインの話を中心に、デラウェアやアルバリーニョの話が出ました。さて、その続きです。

宮城のワイン事情

蜂谷 データの話になるんですが、宮城は東北の中でも特に甘いものを消費する傾向が強いんですよね。東北の中ではもっとも甘いものにお金を使っています。なので、売り場でも一般の方には甘口ワインが売れるんです。以前観光で訪れた土地で甘口のワインを飲んで、ワイン=甘口のイメージを持っているからでしょうか。フルーツにお金をかけているのも宮城。甘みのある食べ物に関心が高いんですよね。

小林 あまりフルーツが採れない土地だからですかね。

蜂谷 仙台は100万人都市ですが、酒類に対するお金の使い方が意外に保守的だと感じます。「純米酒の県宣言」をしているので、日本酒県民としての意識はありつつも、まだワインは外国の飲み物なんでしょうね。だから、東北の中心である宮城でワインが根づかないと、おそらく東北のワイン産業の発展もないと思っていて。秋保ワイナリーができて、まだ10年にも満たないわけですから、宮城がしっかりとした産地になっていくには、20年、30年のスパンでとらえた方がいいのではないでしょうか。

川元 やはりワイン協会なり、組織を作らないとダメってことなんでしょうか。

蜂谷 協会もそうですが、GI登録もありですよね。

小林 山形は凄いですよね。日本酒もワインもGI登録していますから。

蜂谷 買いぶどうも多いので、まだ先だとは思うんですけど、山形に比べて宮城は降雪量も少ないですし、太平洋から吹いてくる風もあるので、ワイン産地になり得る可能性を持っています。例えば、秋保ワイナリーの畑は石灰土壌なので、白ワイン用のぶどうのポテンシャルが高い。仙台市の日照量は意外と高いですし。

小林 ただし、都市化が進んでるので土地があまりありません。

蜂谷 土地開発もそうなんですが、ブランディング含めて、県としてワイン産業をどう発展させていくかというビジョンがあると、もっとスピーディーに事が運ぶのではないかと。

吉田 県主導だと、どうしても短期的なスパンになってしまう面もあると思っていて。さっき蜂谷さんが言ったように1020年スパンで考えるなら、営利に関係ない団体を作って、少しずつボトムアップしていく方法もいいのかもしれないですね。

菊池 正直、僕はいまの宮城県でワイン産業のインフラをつくること自体、難しいことだと思ってるんですよ。ひとつは小さいワイナリーが多いので、自社畑のぶどうだけでは足りない。そうなるとぶどうを購入する必要があるんですが、ぶどう農家がない。ぶどうの生産量でいうと、宮城県は全国で44番目。だからいつまでも、宮城の産地を反映したワインができないという状況になっていて、ジレンマなんですよ。

これからどんどんワイナリーが増えていくのでしょうが、それをまとめる組織やリーダーが生まれないとダメじゃないかと。そうした組織を通じて、情報交換をしながら、ワイン産業のインフラを作っていかないと、10年どころか2030年経っても、形にならないかもしれません。特に仙台は東北の経済の中心なので、ここでしっかりしたワイン産業が立ち上がれば、山形と岩手に囲まれているわけですから、産業として大きくなっていくポテンシャルを秘めている思うんですよね。

そして、もうひとつ僕が心配しているのは、ここ3年から5年の間で、雨後の筍のように生まれたワイナリーがどんどん淘汰されてしまうことです。買収されたり、廃業したり。ワイン特区でも取れば、それこそ2キロリットル作ればワイナリーとして成立するんですが、一方、特区は特区で逆に制約が大きすぎて、特区内のぶどうしか使えないとか、色々と縛りが出てくる。

吉田 宮城は特区、無理ですよね。

菊池 いま特区を取っても、あんまり意味ないと思うんですよ。それよりも、ワイナリー同士の枠組みを作って、そこで宮城のワイン産業を発展させていくほうがいいと思いますよ。

吉田 まだまだ宮城のワインは発展途上。まずは美味しいワインを作ることが大前提で、それを踏まえて、宮城県としてどこに向かっていくのかという段階なんだと思うんです。

菊池 本音をいうと、値段と味わいが合致しているワインが少ないんですよ。この味で3000円?とか、この味で4000円?というワインがいっぱいある。それを脱却しないとダメですね。それと一貫性。毎年飲んでみて、ちゃんとワイナリーのスタイルが認識できて、その個性を各ワイナリーがひとつずつ持つこと。そしてある程度のレベルの買いやすい価格帯のワインをベンチマークにして、品切れせずに年中買える状態にすることも大事。これは永遠の課題かもしれないけど、そろそろ東北のワイナリーも自分の土地に合ったぶどう品質を決めて、そのクオリティを高めていく必要があると思います。先日、長野の東御の人と話したのですが、巨峰だけでワインを造っている人もいるわけで、「自分のワイナリーのメイン品種はこれだ」と決めて、それを磨き上げていく必要があるんでしょうね。

吉田 宮城のワイナリーはまだ迷っているのかもしれないですね。

仙台出身の醸造家

川元 さて次のワインに移りましょう。

蜂谷 私が持ってきた吾妻山麓のサンジョベーゼです。樽の魔術師・牧野さんが造ったワインです。

菊池 牧野さんは仙台出身です。

蜂谷 日本で育てるのが困難だと言われるイタリア系品種にトライしているのはすごいと思いますし、樽の使い方でうまくカバーしています。エノログ(醸造技術管理士)である牧野さんの実力ですね。

川元 このワインは去年のKappo20周年イベント「テロワージュを感じる 松本圭介シェフ×東北ワイナリー ペアリングディナー」にも登場しました。松本シェフ、何と合わせたんでしたっけ?

松本 メカジキを大崎マルセンファームのトマトソース オレンジ風味と合わせました。

川元 トマトの酸味がサンジョベーゼの酸味とよく合いました。

蜂谷 梅みたいなニュアンスがありますね。この酸味って食事の時にはすごく重要だと思っていて、この酸味が甘みやいろんな味と反応して面白くなる。ブルゴーニュのピノノワールやボルドー左岸のカベルネみたいに、単体で完成されたワインではなく、料理と合わせて完成するワインなんだと思います。食事に寄り添えるワインという表現が正しいかもしれません。

吉田 肩に力が入っていないというか、優しくて飲みやすい。

川元 値段的にも2640円(税込)とリーズナブルです。

松本 昔はマリアージュというと、第3の味を作るために料理とワインを合わせるという考え方でした。だから結婚して、次の新しい味が生まれるのがマリアージュだったんですけど、いま日本人のソムリエが活躍するようになって、味を切るような日本酒的な合わせ方もあって。だからワインの個性があれば、料理との組み合わせが差別化しやすくなってきてるんですよ。ペアリングのポイントだけで言ったら、狙いどころがはっきりする。ただ、消費者目線だと、やはり1口目のインパクトに美味しさを感じたりするので、一概には言えませんが。

蜂谷 確かにレストラン向けのワインだと思います。

小林 人によって意見が分かれているので、確認なんですが、ワインって食事と合わせる時に口の中に料理がある状態で飲むのか、料理をすべて飲み込んでからワインを飲むのか、どっちなんでしょう?

蜂谷 後者でしょうか。

川元 口内調理するパターンもありますよね。

蜂谷 日本の文化は口内調理なので、そういう意味ではこの作り方は可能性があると思います。

吉田 海外ではあまりサンジョベーゼをこういう風に作らないですよね。長野のピノノワールやメルロみたいに、薄く薄く造っていく感じ。日本人らしい造り方で、私は実はこういうワイン好きなんですよね。

蜂谷 日照時間が足りないから、そんなに色濃く作れないという側面もあります。

吉田 逆に濃くできないから、それを逆手にとって、日本人に合わせやすい方向に作っていると思います。日本人には評価高いんです。

蜂谷 昨今、薄うまのピノノワールの評価も高くて。薄くて旨味があって、後からタンニンが追いかけてくるというのは、某日本のマスターオブワインの方いわく、日本しかないテロワールの条件だと。

吉田 フランスでは日照の問題もあって、皮が厚くなって濃いワインが増えている。古き良きブルゴーニュ好きが薄うまワインを求めていると言えると思います。

 

宮城を代表するワインメーカー

川元 次は了美ヴィンヤード&ワイナリーの「レカトル セパージュ ルージュ ラセリー了 2021」です。このセパージュは珍しいですよね。メルロ、ベリーA、ピノノワール、ガメイ。ガメイが入っている。これ全部自社畑ってことですよね。

松本 美味しい。うん。

小林 日本のワインじゃないようです。

菊池 ワインメーカーの樫原さん、うまいよね。

横山 さすがですね。

菊池 若い樹齢のワインだと、なかなかこういう味わいにはならない。

川野 香りがすごい。

蜂谷 抽出が強いんだと思います。ボルドー系品種のあるあるですけど、あんまり熟度を高めると、青いほうずきの香りがするんですが、逆に日本ではその特性をうまく使えるらしく、海外ではアロマとパンチとタンニンが全部一緒に来るのですが、日本の場合、最初にメトキシピラジンを感じて、次に果実味を感じて、3段階目にタンニンが来るのが、日本独自の味わいらしく、これが日本の赤のボルドー系品種のポテンシャルなんだと生産者の方からお聞きしました。

横山 “引き算の美味しさ”を感じます。あれもこれも前に出すのではなく、こだわりの部分だけをきちんと残すために他の部分は丁寧に磨き落としていくような。そこが繊細で、上手だなって思うんですよね。

松本 今月末、これ店で出してみようかな。フランス人のゲストが来るんで。

川元 ああ、いいかもしれないですね。

蜂谷 ワイナリー以外ですと、このワインは仙台駅のむとう屋さんに置いてあるはずです。むとう屋さんには了美さんとのコラボで売っている甘口ワインもあって、めちゃめちゃ美味しくて、飲みやすい。キャンベルのワインって、甘くて、ラブルスカ系の香りが残っていて、時にバランス悪く感じるんですが、それがなくて、こんなに綺麗に作れるんだと驚きました。了美さんの醸造技術の高さがすごいなと。キャンベルをああいう風に作れる人がいるなんて……。

横山 2021年の白も良かったですよ。

川元 白の「ラセリー美 レ カトル セパージュ ブラン2021」は、去年のイベントで白身魚のカルパッチョと合わせて、好評でした。さて、6本目いきましょうか。サンマモルワイナリーの「RYOセレクション ピノノワール2019」です。東北を代表するピノノワールではないでしょうか。

菊池 畑に行きましたか? けっこう熊が出ているという情報を聞いていて。

川元 10年前の特集の際は下北まで行けなくて。念願かなって、今回初めて畑を見学できましたが、広いし、整理されていて、いい畑だなと思いました。確かに熊の話にはなりましたね。

菊池 サンマモルのぶどうは樹齢も上がっているし、まだまだポテンシャルが上がりそうですね。

蜂谷 そういえば熊が出ることを逆手にとって、熊さんラベルのワインを出しましたよね。

川元 商魂たくましいですよね。

蜂谷 共存共栄して時には駆除してジビエにするのも、ある意味テロワールのひとつといえると思うんです。過剰な動物愛護の動きがあるので、悩ましいんですけど。

菊池 北の果てで、こういうエレガントなワインが作れるのは、率直に言ってすごいなと思います。

川元 まだまだ話は尽きませんが、そろそろ座談会もお開きです。これだけの本数、東北ワインを集めて、みなでテイスティングする機会はそうそうありません。ぜひ、この集まりを継続して、読者の皆さんと一緒に東北ワインを盛り上げていければいいですね。ありがとうございました。

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