奥羽山脈の西に位置する山形県は、大きく置賜・村山・庄内・最上地方で構成され、全てのエリアを母なる川、最上川が流れている。
2016年に全国で初めて山形県全域が地理的表示(GI)の指定を受けたのは、最上川が貫流する4地域に、まんべんなく酒蔵が存在しているからだ。
「日本酒の約90%は水ですから、水はお酒の雰囲気に大きく影響します。おいしい日本の水を、よりおいしく味わうための飲み物が日本酒であり、山形のお酒がおいしい理由は、水にあるんですよ」と教えてくれたのは、南陽市にある『結城酒店』の社長、結城秀人さんだ。
最上川の水源は米沢市の西吾妻山にあり、扇状地が広がる米沢盆地には山の雪解け水や川から染みた水が地下に流れている。
最上川上流の軟水で醸す置賜地方の酒は、口当たりが非常にやわらかだ。
「山形は日照時間が短く置賜の水は軟水。その環境で育った米は色白で華奢です。だからこそ、やわらかな水と米で造る置賜の日本酒はとても繊細できれいな味わい。最初の一口には、そんな置賜のお酒がおすすめです」(結城さん)。
置賜地方には3市5町すべてに酒蔵があり、現在18の蔵が酒を醸している。
味わいはもちろんのこと、酒造りの背景にあるそれぞれのストーリーも魅力的だ。
例えば、米沢市の『小嶋総本店』は、安土桃山時代に創業し、上杉家の御用酒屋としての歴史を持つ。
酒蔵は最上川の水源に最も近く、その水で仕込む酒はコンテストで数々の最高賞を受賞している。
結城さんが「山形で一番やわらかな日本酒」と評するのは、米沢市の『新藤酒造店』。
非常に丁寧な仕込みを行い、徹底した温度管理のもとで造る酒は清冽な味わいだ。
さらに、機械化せずほとんどの工程を手作業で行う南陽市の『東の麓酒造』は、まろやかな口当たりの中に程よいコクのある酒を醸す。
飯豊町の『若乃井酒造』は冷蔵設備を使わずに昔ながらの雪室を利用。
熟成を自然に委ねることで、甘みのある、なめらかな日本酒を造る。
また、個性的な酒の一つが川西町の『樽平酒造』。
伝統製法にこだわって木の樽で仕込むことから、ほんのりと樽香が楽しめる。
東日本大震災で福島県浪江町から長井市に移転した『鈴木酒造店』は、福島県の試験場に残っていた家付酵母と置賜の水、米で酒造りを行うのが特徴だ。
「酵母は、その土地で生きた証をしっかり記憶しているのでしょう。山形のお酒とは思えない、太平洋の魚に合う味わいです」。
結城さんからは置賜にある酒蔵のエピソードが次々と飛び出し、同じ物語は一つもない。
「酒蔵は一つの世界なんですよ」という言葉が印象的だ。
昨今は、ワインで用いられるテロワールの考え方が日本酒にも広まり、山形でも酒蔵の周辺で米を作る、いわば「原点回帰」の動きがある。
今後はこれまで以上に地域性の濃い日本酒が生まれるはずだ。
「置賜の水や澄んだ空気はどこにも流通できない財産です。置賜で醸した日本酒を、置賜の空気の中で地の物と味わう。この格別なおいしさを体験してほしいですね」。
『小嶋総本店』の「東光の酒蔵」は東北最大級の酒造資料館。
酒蔵見学も可能で、併設のショップでは試飲を楽しむことができる。
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