2011年3月11日から13年。
福島の被災地をめぐり、現地で生きる人の声を聴き、自分の問いと向き合う「ホープツーリズム」が、今あらためて注目されています。
それは単なる震災学習や防災教育ではなく、未来を考える“学びの旅”。
心に静かに残る体験の数々は、訪れる人それぞれの原動力になるはずです。
福島県は、東日本大震災による地震と津波とそれに続く原子力災害、さらに風評被害という世界で類を見ない『複合災害』を経験した唯一の場所です。
津波の爪痕が残る場所もあれば、未だに故郷に帰ることのできない人もいます。
その一方で、風評に苦しみながらも農業や漁業に新たな活路を見出そうとする人や、町おこしや新たな産業の創出に挑む地域でもあります。
刻々と変化する福島のありのままの姿を見て、復興に向けて果敢にチャレンジする人々の話を聞く。
そこから学び、気づいたことをもとに、自ら、そして社会の未来へと繋ぐべく考え、創造する。
「複合災害の教訓等から持続可能な社会・地域づくりを探究・創造する」。
そんな福島ならではのスタディツアーが「ホープツーリズム」なのです。
日本初のサッカー・ナショナルトレーニングセンター『Jヴィレッジ』。震災直後は原子力災害の対応拠点として使用されたが、2019年に全面再開。
ホープツーリズムがスタートしたのは2016年。
福島県の推進のもと、被災地の街並み・被害を伝承する施設の見学やフィールドワークを通し、多くの刺激や気づきを得る旅が始まりました。
当初は高校生など学生向けの学びとして推進され、やがて人材育成やリスクマネジメントにホープツーリズムを取り入れる企業などにも拡大しています。
2023年度は年間16,000人以上の人がツアーに参加したそうです。
ホープツーリズムをサポートするのが「フィールドパートナー(FP)」です。
FPは、参加者にツアーに関するさまざまな情報を伝え、施設や現地の人々の対話の補足などを通して参加者の学びを深める手伝いをする、いわば「総合案内人」としての役割を担っています。
FPの一人である山口祐次さんは、「私自身被災し、自宅から避難を余儀なくされた住民の一人です。震災と向き合うことが辛い時期もありましたが、この教訓は活かさなければならないと強く思うようになり、それが自分の役割だと思うようになったのです」と、FPとなった経緯を話します。
FPは、震災や原子力災害、復興に関する情報を伝える中で、あくまでも中立・客観的な立場を守ることが大切だと語る山口さん。
「あくまでも真実を見て、聞いていただき、参加者の探究心を引き出し、学びを深めてもらえるように努めています」
『一般社団法人 ふくしまリアリ』代表理事・山口祐次さん。フィールドパートナーとして活動するとともに、『(一社)ふくしまリアリ』を設立し、震災とその歩みの伝承、魅力ある地域づくりを目指す。
年間40件ものツアーにFPとして同行する山口さんは、これまでさまざまな参加者に出会ってきました。
地震や津波の爪痕を見て涙する中学生。
中間貯蔵施設やメガソーラー施設を見学し、「将来、再生エネルギーの課題を解決する研究者になる」と語った高校生。
災害時のリスクマネジメントのあり方を見直したり、企業と地域の関係性を考え直したり、社会人としての在り方を考えるようになったという人も多いといいます。
「福島は、震災と原子力災害で発生した問題だけでなく、地方創生や産業の衰退、新規産業の育成など日本全体に通じるさまざまな問題を抱えています。福島の課題を考えることは、日本の将来に繋がると思います」。
山口さん達FPは毎回、ツアー参加者に問いかけています。
「あなたはどう思うか。どう感じるか。あなただったらどうするか。これから何をすればよいと思うか…」。
その答えはもちろん1つではありません。
海岸から2kmの高台に広がる浪江町営『大平山霊園』。震災時には請戸小の先生、生徒がここ大平山に避難した。慰霊碑とともに震災の記憶を伝える。
震災・原発事故から14年を経て、被災した地域、そして人々も大きく変わってきました。
新しい施設ができ、戻る人、移り住む人もいます。
それに伴って、ホープツーリズムで訪ねる施設や情報も少しずつ変わってきています。
しかし、「震災と原発事故の記録、さらに再生、復興の状況を人々に伝え、他人事でなく自分事として考えてもらう。そして、自分の将来、社会の将来を少しでも良い方向に導くためのきっかけにしてほしい」という、ツアーにかける思いは今も、これからも変わりません。
避難指示によって大きく変わってしまった街並みや、未だに足を踏み入れることのできない地域。
あるいは復興に向けて歩み出したり、未来への新たな取り組みを始めたりしている地域。
報道だけでは伝わらない福島の「今」を、皆さん自身の目で見てください。
地震や津波、原子力災害、風評被害はどのように起こり、人々の生活を変えたのか。
また、それらの災害、被害の中で、困難を乗り越え果敢にチャレンジする人々の思いとは。
人々の話、思いを聞くことで、きっと多くの刺激や気づきを得ることができるでしょう。
皆さんが見て、聞いたことをもとに、震災や原子力災害によって顕在化した問題をはじめ、福島で起こっているさまざまな問題や自分が住む地域の社会課題を考えるきっかけとなれば、自分自身の学びの種とすることに繋がります。
「地震発生直後、請戸小の先生、生徒は大平山に避難し、奇跡的に助かった」。
『請戸小学校』ではパネルや地図をもとに、震災当時の状況を展示。
[住所]福島県双葉郡浪江町請戸持平56
[電話]0240-23-7041
館内の映像や展示などの豊富な資料から、震災・原発事故直後から現在までの経過、復興の歩みの全体像を学ぶことができる。
[住所]福島県双葉郡双葉町大字中野字高田39
[電話]0240-23-4402
2020年、町の復興のシンボルとして誕生。
買い物や食事、休憩に加え、町の人々の暮らしを支え、チャレンジを後押しする場所でもある。
[住所]福島県双葉郡浪江町大字幾世橋字知命寺60
[電話]0240-23-7121
樹齢約100年のソメイヨシノが並ぶ桜のトンネル。
震災後、帰還困難区域となっていたが、2022年より全長約2.2キロの観桜が可能になった。
[住所]福島県双葉郡富岡町字夜の森南4丁目
[電話]0240-22-2111(富岡町産業振興課)
雄大な太平洋を望む高台に、キャンプ場や温泉、宿泊施設が配された総合レジャーエリア。
サイクリング場やドッグランも整備されている。
[住所]福島県双葉郡楢葉町北田字上ノ原27-19
[電話]0240-25-3113([一財]楢葉町振興公社)
「四季を感じる料理」と「華やかな花」が迎えてくれるレストラン。
和フレンチコース料理が味わえる。
ディナーは予約のみの営業。
[住所]福島県双葉郡富岡町大字本岡字清水前399
[電話]0240-25-8615