PHOTO=池上勇人、戸澤直彦(Photo Mart)
仙台に飲食店は数あれど、特別な日を過ごすための一軒や、大切な人をもてなすための一軒を選ぶとなると、案外迷ってしまうもの。
そんな方のためにも、過去Kappoに掲載した物件の中から、編集部がおすすめする飲食店をジャンル別にまとめてご紹介します。今回は仙台市内のフレンチの名店を7軒ピックアップ。日々のお店探しにお役立てください。
無機質な印象のモダン空間に設えられた大きなコの字のカウンター。中央のオープンキッチンで腕をふるうのは、ミシュラン星付きレストランなどで活躍した菅原譲シェフ。宮城の食材の豊かさ、力強さを再発見したというシェフは、古典的なフランス料理の技法を軸に、独自のアレンジを加えて現代風に表現する。
「最も大切にしているのは香りです」と話すシェフ。例えば、この日アミューズのフォアグラに組み合わせたのはいぶりがっこ。玉ねぎは炭になるまでローストして香りを立たせる。あん肝のテリーヌはハーブを効かせ、かぼすの香りをまとわせている。一皿一皿、五感を刺激するプレゼンテーションは、食材の持つ生命力を発揮させるため。ミニマルな美しさの中に、大地の恵みと生産者への尊敬と感謝の気持ちが込められている。
2005年にオープンしたこの店では、35年にわたりフレンチの研鑽に努めるオーナーシェフの上山さんが織りなす料理を楽しめる。旬の味覚を楽しめることはもちろん、時代や訪れる人のニーズに応えたフレンチレストランとして人気を博している。
ランチに味わいたいのが「プチナージュコース(2100円・税別)」。メインは魚料理か肉料理を選択できる。この日のコースに登場した魚料理は「タイのポワレ」。グリーンアスパラのソースが瑞々しく、鯛の繊細な味わいを存分に楽しめる。さらにデザートは好みで選べる2種類のスイーツとフルーツの盛り合わせが付く。コース料理には「アニバーサリーディナーコース(7500円・税別)」のほか、価格に応じたコースを用意してくれるのもうれしい一軒だ。
「ご褒美レストラン アポロン」は、料理をはじめ、インテリア、食器などでフランスの伝統を感じられる名店。三ツ星レストランの副料理長も経験したシェフが、客とのコミュニケーションを大切に、正統派クラシックフレンチを提供している。
人気のコース「アポロン」のランチはメインを3つから選べる趣向で「豚バラ肉のプチサレ」が一番人気。8種類以上のハーブやスパイスで香り付けしたソミュール液に1週間漬け込んだ岩中豚のバラ肉を半日煮込み、表面のみ香ばしく焼き上げて、セミドライトマト、青みの野菜を重ねて盛り付けられた一皿だ。シェフは狩猟免許も持ち、冬はジビエも提供。古き良き伝時代のフランス伝統料理を、余すことなく満喫させてくれるレストランだ。
東京の名店やパリで経験を積んだ兄弟が営む「レストラン ツジ」。調理場の目の前にあるカウンター席や家族で楽しめるテーブル席など、フランス料理を気軽に食べてもらうための店作りをしている。
看板メニューの「20種類の元気野菜のプレッセテリーヌ」は名取の自家農園で作る有機野菜をたっぷりとプレス。「野菜によって湯で加減や塩加減を変えます。大胆にナイフを入れて、野菜のハーモニーを楽しんでほしい」とシェフの圭一郎さん。食材の力を活かしたオリジナルフレンチを存分に味わいたい。
フランス最高の職人のもとで伝統のシャルキュトリーを学び、故郷である仙台に『オー ベリエ』を構えた。シェフ・佐山さんのシャルキュティエとしての妥協なきものづくりが、仙台にその本質的な価値を広めている。
シャルキュトリーの多彩と奥行きを一同に会したひと皿が「自家製シャルキュトリーの盛り合わせ」だ。常時20種以上あるシャルキュトリーの中からその日のおすすめを6種盛り合わせてくれる。部位によって異なる肉質や脂質を、どう料理すれば、どう組み合わせて使えばよりおいしくなるか、という先人たちの経験や積み重ねが、佐山さんのレシピには宿っている。
『レストラン 拓』で初めて出会ったあの日から、何度味わっても飽くことなくオーダーを重ねるゲストが多いのが、「カニとホタテとエビのフラン」。メニューには前菜として名を連ねる料理だが、スープとしても、またポワソンとしても十分に満足できる味わいなのがうれしい。
口に含めば瞬時に消え、その香ばしく甘い風味だけをなびかせる泡状のソースは、毛蟹のフュメに生クリームを合わせたもの。泡の奥までスプーンを差し込めば、ふるふるとやわらかに揺れるフランに抱かれ、カニやホタテ、エビが姿を現した。味わえばそれぞれに丁寧な仕事を施された海幸は異なる個性を発揮する。
儚く、淡く、頼りない泡とフランのテクスチャー。しかしその風味は香ばしく濃く、大ぶりの魚介も存在感に満ちている。そのアンビバレントさが醸し出す個性的な美味に、焦がれてやまないのだ。
超実践主義で自らの料理を模索してきた『Oupe』シェフ・渡辺さんの関心は「生命力」に向いている。野山に繁る咲きっぱなしの野草やハーブ。微生物の働きによって生を紡ぐ発酵。一般的な食の流通にのっていないものに、新たな食の発見をを求める。その研究と実践ラボが『Oupe』なのだ。
「鰯とハックルベリー」は秋保で摘んだハックルベリーを米酢とワインビネガーとで1年間漬け込み、おろしたてを浅く炙った鰯、スライスした茄子と合わせる。紫紺のハックルベリーはもとからどこか茄子ににた風味を有していて、酸味とともに鰯を染め上げている。酸のしっかりしたオレンジワイン辺りを合わせれば、ワインの余韻が最後のソースとなってさらなる変化をもたらすだろう。
未知なる食材、これまでの食の範疇になかったものに可能性を見出す『Oupe』。そこを訪れることは、単なる食事を超えた知的発見に心躍る時間となるだろう。
※2020年『Kappo3月号』、2020年3月発行『仙台のおいしい店』に掲載した内容です※