Kappo 仙台闊歩

FOOD 2023.07.14

【そばライター菅原ケンイチさんおすすめ】 そばの名店 宮城② 仙台市青葉区国見ヶ丘 『お蕎麦 妙庵』

写真=菊地淳智 TEXT=菅原ケンイチ

大人のためのプレミアムマガジン『Kappo 仙台闊歩』の特別編集版『本当にうまいそばの名店 宮城』。そばライター菅原ケンイチさんが厳選した宮城のそば店をご紹介していきます。食べ歩きの参考にしてください。

PROFILE

菅原ケンイチ

仙台市在住のライター、ブロガー。

「本当にうまいそばの名店 宮城」企画・執筆。そばとラーメンの食べ歩きはライフワークで「本当にうまいそばの名店 山形」「本当にうまい宮城のラーメン」も企画・執筆。ツイッター、インスタグラム、noteでそばとラーメンに関する情報などを発信中。

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妥協のない極上のそば。細部まで洗練された名店

※2022年9月25日発行『本当にうまいそばの名店 宮城』より転載しています。

国見ケ丘にある『お蕎麦 妙庵』。和の趣を持った店のたたずまい。店主小畑さんの趣味による店の調度は、そばの名店にふさわしい味わいと風雅を漂わせている。メニューの品ぞろえはあくまでもそば屋の正統であり、そこからもこの店の「格」が見えてくる。そして季節とともに変わるメニュー、器、店内の飾り。それは季節を重んじてきた、日本文化の神髄ともいえるだろう。

店に入ると右手にガラス張りの作業場があり、打ち台には大きなこね鉢が、そして脇に3台の石臼が見える。奥の席に着くと出迎えの心として、ゆずの香る、わざわざ作ったとろみあるそば湯が出てくるのだ。

そばは「ざるそば」と「田舎そば」の2種。ざるも田舎も自家製粉の十割細打ち。両者の違いは粉であり、ざるは殻をむいた丸抜きからの製粉、田舎は殻つきのままで粗めに玄挽きした粉を使っている。「ざるはのどごし、田舎は個性が特徴ですね」と小畑さん。

現在使っているそばの実は丸抜きが北海道の「キタワセ」と茨城の「常陸秋そば」で、2つをブレンドしていた。そして田舎は殻つきのキタワセなどを使っている。量の多く出るざるそば用の粉は電動の石臼で挽き、数量限定の田舎そば用は手回しで挽くという手のかけようだ。

つなぎのない十割を細く打つのは至難の業なのだが、小畑さんは水回しに細心の注意を払い、とにかく早く打つ。そのためにもそば粉にまんべんなく水を含ませ、なおかつ乾きが進まないうちに打ち終わらせなければならない。実に小畑さんは2㎏を20分で打つというから相当な早さである。

「ざるそば」900円 つなぎを使わない十割の細打ち。普通は短くぶつぶつに切れてしまうものだが、ここまできれいにつながった麺線は実に見事。粉がいいので風味がよく、ほのかな甘みさえ感じる。これまでは難しかった「十割でののどごし」を体現した逸品。原料のそばは作柄や季節によって状態が微妙に違うので、状態を見て製粉やブレンドの仕方を調整している。

「田舎そば」1000円。玄そばを粗挽きした十割の細切り。こちらは香りと甘さが一層際立ったすばらしいもの。「ざるそば」よりさらに打つのが難しく、丸抜きの粉と甘皮部の粉を加えて微調整している。

「そばがき(荒挽)」1300円は、塩かそばつゆで食べる。注文を受けてから挽いた挽きたてなので、さっきまで実の中に閉じ込められていた香りがストレートに来る。そばの風味とともに、枝豆にも似た穀物の味さえする。

作業場に置かれた石臼。希少な石材である蟻巣(ありす)石は良質な粉ができることで知られる。

『お蕎麦 妙庵』では、かつお節に高級品の「本枯節」を仕入れ、毎朝店で削ってだしをとっている。削りたての節は素晴らしい香りがあり、この香りとうまみがだしの命となっている。

日本の料理文化の真髄であるかつお節は、生のかつおをゆでた後に燻製にする。通常使うのはこの段階の「荒節(あらぶし)」であるが、これにカビ付けを複数回繰り返したものが「枯節」、その回数が多いものが「本枯節」である。この間、カビの作用で脂肪分と水分が抜けて熟成が進み、叩けば金属的な音がするほど固くなる。本枯節は雑味のもととなる脂肪分がほとんどないため、だしはクセがなくうまみが凝縮した、きわめて上品な味わいになる。

店のそばつゆ(つけ汁)は、本枯節のうす削りと利尻昆布でだしをとって、かえしと合わせている。かつおのうまみとコク、火を通してまろやかにしたしょうゆ、くどさのない甘み。これらがバランスをとって一体になっている。そばつゆにとって最も大事なことはバランスであり、各素材が丸みを持って一体となっていることが重要だ。逆に何かの味が前に出ているものは、バランスに欠け、それがそばの味をじゃまする元にもなる。

開店当時のつゆは関東風の辛い汁だったが、お客さんの要望に合わせて、やや辛さを抑えたという。「要はそばのつけ方の問題です。本来はちょんづけすることで、そばとの味が整うようにしてるのですが」と小畑さんは明るく笑う。

店主の小畑嘉則さん。かつお節を削るのも毎朝の仕事。機械を使い、一本のかつお節があっという間に削り節になる。作業場にはうまみさえ感じる上品な香りが充満し、本枯れ節のポテンシャルの高さを感じる。削りの厚さは厚削りと花がつおの中間くらいで、削った後に細かく手で砕く。

高級品である枕崎産の二年物本枯節。かつお節は五枚におろした身を、手間ひまかけて加工する。写真右が腹側、左が背中側でだしの出方も違う。

「鴨スモーク」1000円。マグレカナールというフォアグラ用の鴨の高級肉。鴨の赤身部は本来淡白なのだが、甘い脂がのっており、食感と香りが素晴らしい。自家製のドレッシングがかかっている。

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・ごまごのみそば 1100
・くるみごのみそば 1100
・生ゆばそば 1800
・庵 2300

●つなぎの配合とそばの太さ
十割/中細

●製粉
自家製粉

お蕎麦 妙庵

住所
仙台市青葉区国見ヶ丘3-1-9
電話
022-719-3161
時間
11:30~15:00(LO14:30)、土日祝日は17:00~20:00(LO19:30)も営業*そばがなくなり次第終了
休日
木曜(祝日の場合は翌日)
備考
P10台 テーブル20席、小上り12席 平成10年4月開業

仙台市青葉区『お蕎麦 妙庵』が載っているのはこの本です。

そばライターが230店を実食して選んだ70の名店。大幅改訂初掲載17店。Kappo特別編集『本当にうまいそばの名店 宮城』好評発売中。宮城県内の書店、Amazonマチモールほかで発売中。

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