写真=鈴木信敏(ノブフォト) TEXT=編集部
新緑から深緑へ移り、東北全体がいきいきとしてくる季節。おでかけ機運が高まっている方も多いかと思います。東北ならではのもてなしや食、文化を感じられる宿をピックアップした7月号の巻頭特集「東北を感じる宿」から、7月14日にオープンした『こもる 五所川原』をご紹介します。
「こもるって、クリエイティブなことだと思うんです」
香田遼平さんは、7月14日に開業する宿『こもる 五所川原』の代表だ。
宿は、香田さんが6歳まで暮らしていた祖父母の家。
空き家となってからも、東京での仕事に疲れたときには、ふらりと帰ってきていた。
自然豊かな五所川原に立つこの家に〝こもる〞ことで心が落ち着き、結果、新しい企画が生まれることがあった。「新しいアイデアや作品を生むには、誰にも邪魔をされずに自分と向き合う時間が必要。だから、〝こもれる〞場所をつくりたかったんです」
全5室の客室。
家具は文机と座椅子のみ。
さらに、1階の客室には、それぞれ坪庭を設える。枯山水を眺めながら、文机に向かう。
原稿を書くために宿に逗留する小説家は昔からいるし、アトリエから出てこない芸術家の話もよく耳にする。
普段、時間に追われている感覚はあるが、自分に向き合い、ゆっくりと考える時間が取れない現代なら、なおさら〝こもる〞時間の価値と、贅沢さがわかる。
「ときどき、五所川原だから太宰治が生まれたのではないか、と考えることがあります。世界のムナカタも青森市出身。青森には世界に届く作品を生み出す、なにかがあるんじゃないか。そう思っています」
津軽の冬は長く、厳しい。
日常生活に支障をきたすほど、雪が積もる。
自然、冬ごもりする。冬の間、彼らはなにを思い、考え、過ごしていたのだろうか。
「冬にこそ来てほしいです。
雪はものすごいですが、その分雪が音を吸い込むので、しんとした中で没頭することができますよ」と香田さん。
自分のためだけの時間を手に入れられるなら、真冬の五所川原も悪くない。
そう思った。