写真=池上勇人 TEXT=川野達子
Kappo11月号は、「東北ワインの造り手に会う」と題した、東北のワイナリー特集です。今、日本のワインは世界中から注目を集めており、東北のワインも人気が高まっています。『Kappo』では10年前に「東北ワインの実力」という特集をしましたが、それからどんどんワイナリーの数が増えています。老舗はさらに深化し、皆さんがそれぞれ個性あふれるおいしいワインを造っています。その中から編集部が実際に飲んで、“会いに行きたい!”と思った、東北6県のワインの造り手に会ってきました。その中から、山形県上山市にある『ウッディファーム&ワイナリー』をご紹介。1本のワインに詰まったたくさんの〝東北〞を、感じてください。
「9割は言い過ぎかな。でもワインは8割以上、ブドウにかかっています。ブドウの品質がよくなければ、いくら頑張ったっておいしいワインはできません」
代表であり栽培責任者を務める木村義廣さんの話を聞きながら、ドメーヌと名乗る覚悟のようなものを感じていた。
「今年は暑くて糖度の上昇が早い。収穫タイミングを逃さないようサンプルを取りながら生育状況を把握し、醸造に入る予定を決めま
す」
何よりも優先すべきはブドウの状態。
自社畑であればこそ、熟度を見分けながら収穫できる。
ワイナリーの設立は2013年だが、果樹農家だった先代の義男さんは1974年にカベルネ・ソーヴィニヨンの栽培に着手している。
「食用のデラウェアが全盛のときにワインメーカーと契約し、誰もやったことのないワイン専用品種の植え付けを行いました。それがワイン用ブドウ栽培に挑戦する始まりです」
ほかにもメルロ、シャルドネ、ピノ・ノワールを契約栽培したが、ブルゴーニュ系品種は安定しなかった。
「シャルドネは魅力のある品種ですが雨の多い年はひどい。果皮の薄いピノ・ノワールも反応は敏感で、一夜の雨でも実が割れてしまう。この土地に適した品種の選定が必要だと思いました」
国内外のブドウ産地やワイナリーを訪れ、テロワールに合う品種が選ばれていることを知った。
「フランス・ロワール地方に憧れのワイナリーがありました。しかし植生を見て、この地域の品種は我々には絶対に無理だなと感じました」
適地適作こそ良質なブドウ栽培の第一歩。
耐病性があれば手もかからず収量も安定する。
その理解とともに、自分もいつかワイナリーを、との想いを強くした。自分が育てたブドウを、ワインの原料として販売するのではなく、ワインを造りたいのだと。
現在は9haの畑で9種類の欧州系品種を栽培している。
赤ワイン用品種の基幹はカベルネ・ソーヴィニヨン。
栽培を始めた当初は積算温度が不足し、糖は十分でも青っぽい香りが残っていたが、温暖化の影響で10年くらい前からはそれも気にならなくなったという。
「白はプティ・マンサンとアルバリーニョに期待しています」
温暖化を見据え、何種類か試験栽培した中の2種。どちらも病気に強く、雨量の多い地域でも育てやすい。
また高温でも酸が落ちにくいことから世界的な流行を見ている。
「プティ・マンサンはピレネー山脈の麓で栽培されてきた品種。植生や雑草、茂り具合は上山と似ています」
高貴な香りを放ち続けるワインは他を圧倒する魅力があり、ワイナリーの中核をなす品種という確信を得て栽培面積を増やしていくという。
「世界的に素晴らしいと言われる品種だとしても、この土地に合わなければ努力は無駄になる。だから〝違うな〞と思ったら伐採し、栽培しやすい品種に更新します」
木が新しければフレッシュになり、樹齢の長い古木には味わいもある。それを見極め樽熟成するのか、リリースはいつにするのか。醸造の仕方も変わってくる。
「しかし答えはないよね。だから毎年造れるのかもしれません」と穏やかに微笑んだ。