構成・文=小林薫(編集部) 撮影=池上勇人
2009年に劇団ロロを立ち上げ、古今東西のポップカルチャーをサンプリングしながら描く世界観が演劇ファンのみならず、ジャンルを超えて注目されている宮城県出身の劇作家・演出家の三浦直之さん(写真右)。書き下ろし最新作であるパルコ・プロデュース公演「最高の家出」が仙台でも上演されることになった。ももいろクローバーZの高城れにが単独初主演ということでも話題となっている本作について、三浦さんと舞台に立つ福島県須賀川市出身の俳優・板橋駿谷さんのふたりに、仙台公演を前に作品への意気込み、故郷のことなどの話を聞いた。
《STORY》
結婚生活に疑問を感じ、家出をした立花箒(高城れに)。道中、無一文になり途方に暮れていたところ、たまたま出会った藤沢港(東島京)から利いた“住み込みの劇場”の職にありつく。その仕事は舞台上に作られた“模造街”で、ある役を演じることだった。この劇場ではたった1人の観客のために、7ヵ月間をかけてひとつの物語を上演しているのだが、港が家出したせいで、箒は代役を務めるハメに。舞台の主演・蒔時アハハ(祷キララ)と箒はチグハグな関係のまま芝居を続ける。箒は奇妙で愉快な面々に振り回されながら、次第に劇場での暮らしに心地よさを覚え、アハハとの友情を深めていく。そんなある日、劇場に箒の夫・向田淡路むこうだあわじ(尾上寛之)が現れ、さらに港も戻ってきて、“模造街”の秩序が崩れはじめる……。
三浦
前の仙台公演から、7年ぶりになりますね。東北・地元での公演はありがたいです。
たくさんの友だちに見てほしいし。
今回もそうですが、僕の書く物語に出てくる架空の町って、僕が小さい頃に過ごした町をイメージしたものでもあるので、生まれ育った場所で上演できるのは毎回ものすごく感慨深いですね。
板橋
僕は8年ぶりでしょうか。
僕は、東北公演の方が緊張するんです。
東北だと知り合いが見に来る可能性あるじゃないですか。
でも、東北以外だと知り合いがいないので“なんと思われようがいいや”という気持ちになるんですけど、僕の芝居のせいで知り合いに「つまんない」みたいに思われたくないっていう緊張感があります。
とはいえ芝居って失敗するのも込みで芝居だと思っているので、ミスはあんまり気にしてないですし、久しぶりの東北だからありがたいです。
三浦
そうですね。基本的にはずっと実家で書いていました。いろんなこと思い出しますね。今回はすごく時間がかかりました。途中まで書いてボツになったりもしたので、2年以上かな。今まで書いた中で1番、時間がかかったかもしれません。
板橋
最初に聞いていた話と全然違った。東京で書くのと宮城で書くのってやっぱり変わる?
三浦
どうだろう。でも、東京にいると周りでなにかしらの出来事が起こっているから、焦っちゃう感じはあるかな。東京から離れると、自分のことに集中できる。実家の近くは少し外れると山が広がっているので、 散歩するだけで気持ちが楽になりますね。東京だとなかなかそうはいかなくて。
板橋
僕の場合は逆で、地元に帰ると焦りがなくなっていくことに焦っちゃうんですよね。
“絶対一旗揚げてやる!” っていう気持ちで東京に出て、常にエンジンがかかっている状態でもう20年生活しているんですが、地元に帰るとすごい寝ちゃうんです(笑)。
それでパッと起きて、“あれ、俺なにやってるんだろ。ゆっくりしている場合じゃないでしょ、売れてもいないのに”って思っちゃうんです。
“今日やろうと思っていたことが全然できてない!”って違う意味で焦るという(笑)。
三浦
舞台初日の客席の集中力や熱気に、ものすごく感動しました。
それはやっぱり、(主演・「ももいろクローバーZ」の)高城れにさんをずっと応援してきた観客の方たちの集中力でもあると思うし。
普段から演劇を見る機会が多くない方たちだろうから、ちゃんと届くかな、笑ってくれるかなってすごく不安だったんですけど、笑い声が空間を満たしてくれたし、最後の拍手もものすごく熱かったし。
ものすごくうれしかったですね。
三浦
本当に素敵な方ですね、高城さん。
僕、“あ、この人怖い”って思うとすぐビクビクしちゃう人間なので、演出の現場に行くときはいつもビクビクしてるんです。
でも、今回出演される皆さんは本当に全員光属性っていうか(笑)。
そんな人たちが集まっているから、“あ、よかった。この座組みなら楽しくやれそうだ”って思ったのをよく覚えています。
板橋
みんな明るい感じで、本当、三浦くんの言うとおりです。
(出演者全員の)素敵だなと思うところは、真面目さですね。
三浦くんにはもちろん、三浦くんの作品や言葉に対しても、リスペクトがあって、“この作品を自分がちゃんと、丁寧に届けるんだ”という想いが伝わってきました。
言わなくても演技を見ていればわかりますからね。
三浦
そうですね。
言葉にすると難しいのですが、劇中劇とそれ以外の2つが混じり合う構造になっている、という感じでしょうか。
板橋
でも、その劇中劇ですら、れにちゃんが演じる主役の人生と重なっていく、もう1つの物語に見えてくる。
三浦くんらしい創りだなというか。物語のベースラインからどう遊ぶか。
そこも三浦くんの作品らしいなと思います。
三浦くんの作品は「不思議の国のアリス」みたいに不思議な話が多いので、“このおもしろさが伝わるかな”とか、“おもしろがってもらえるかな”と毎回思うんです。
だから、今回初日を終えてみて、客席の皆さんは笑って、楽しんでくれたんだな、っていう安心感がありました。
板橋
実は、劇中で1回も名前を呼ばれない(笑)。
誰も僕のこと“芦川背中”なんて思っちゃいなくて、台本を読んでいる人しか僕の役名を知らないんです。
今回は家出をしたれにちゃん演じる立花箒(たちばなほうき)が、演劇を上演し続けている舞台上の“模造街”というところに迷い込んじゃう話なんですが、芦川背中はその街にいて、演劇と現実の区別がつかなくなっているんです。
みんなは気づいていることを、一人だけあたかも今気づいた、みたいな(笑)。
ずっと勝手に走っているだけなんでね、気楽なもんですよ。
本当に楽しいです。
突っ走っていくのが1番! 大事なのは突破力と信じる力。
絶対に止まらない。
どんなことでも疑わない。
もう、一切止まらない役です。
三浦
僕は今も実家は宮城県にありますし、小学校3年生までは女川町に住んでいました。震災の後、町が変化していく過程を見てきたことの影響は大きいです。
板橋
三浦くんの今の実家の周りってさ、景色変わったりするの?
三浦
今の場所でも町が変わっていく、という経験はしているかな。僕の今の実家は新興住宅地なので、引っ越した頃は家もそんなに経っていなかった。そこから開発が進んでどんどん家が建って、スーパーができた、映画館ができた、という町の変遷をずっと見ている。なので、町、自分が知っていたものが変わっていくことに対して、ポジティブな気持ちとネガティブな気持ちを、両方持っているだろうなとは思いますね。ポジティブは、わかりやすく言うと便利になる、とか。
板橋
ネガティブって例えば?
三浦
ネガティブは、子どもの頃にキャッチボールしていた空き地が、開発が進んでどんどんどんなくなって、遊び場がなくなる、とか。
板橋
でも、新しくそこに人が住んだり、施設が建ったりすると、 別の思い出が生まれるわけじゃん。そこにまた、三浦くんの新しい思い出が生まれたりはしない?
三浦
いやいや、するよ。大学で上京してから近くに大きな書店ができて。実家に帰ると、だいたいその書店に行って、本を読んだり、仕事したり。それがすごく大事な時間になったりするし。新しくできたことで、新しく生まれたものは、すごくいっぱいあるかな。僕は本を読むことが好きなのとサウナが趣味。実家から歩いて行ける距離に、スーパー銭湯も本屋もあるから、今はもうマジで僕のための町としか思えん、くらいの気持ち(笑)。
板橋
三浦くんの話を聞いてちょっと驚きました。
僕の方は、多分1ミリも変わっていないんですよ、僕が子どもの頃から。
もしかしたら人も変わってないかも。
“え! 子どもの頃から全然変わらない!”っていうおじいさんもいる(笑)。
人は多少変わるだろうけど、場所が変わらないっていうのが、あんまりにも変わらないから怖くなるんですよね。
三浦
地元に帰ると必ず食べる物とかあるの?
板橋
あるある。
『かまや食堂』っていうラーメン屋。
あのラーメンを食べるためだけに、 日帰りでもいいから帰りたいくらい。
僕、中学から全寮制の学校なので、地元の風景は小学生の頃の記憶のまま止まっているんです。
でも、今帰ってもまだ小学生のままの景色なんですよ。
それって、いいも悪いもあるじゃないですか。
親父に「全く変わんないじゃん」って言ったら、「変わらないってことがいいことなんだよ」って言うんです。
それでも、小さい町内会のお祭りがなくなっていたり。
変わらない町と思っていても、“喪失”はしているのかもしれないですね。
中・高で活動範囲が広がる青春のタイミングで須賀川を離れたっていうのも、ある意味では喪失かもしれないですね。
三浦
今回、音楽を担当してくださっているceroの荒内佑さんが、故郷のイメージを大事にしながら音楽を作ってくれています。
すごくノスタルジックな空気と、奇妙でおかしな空気を両立させた音楽なんです。
それがすごく、ふるさとや故郷(こきょう)のイメージが出てくると思います。
板橋
僕は三浦くんの(作品の)を見ているわけですが、今回演じてみて、3.11以降は特に故郷とか場所を扱うことが多いなと感じたんです。
人がいるからこその目線で三浦くんは作品を書くんだなと。
そこになにがあったか、というよりも、そこでどういう人が生活していたのか、というところに三浦くんの思い出とか重きが置かれているんだな、 おもしろいなと思いました。
だから、今回も故郷という場所よりも、そこに人がいるということに三浦くん自体の思い入れがある。
場所と人、両方にフォーカスした作品もあったし、場所に重きを置いている作品もあったけど、人が出入りする前提で場所があったなと。
今回は、三浦くんの中で今は特にそこで暮らしている人たちの方に、思い入れが強いのかなと思いました。
三浦
言い方がすごく難しいんですが、大事な人を亡くしたことに対して、どういうふうに折り合いをつけられるか、その喪失が呪いにならないといいな、と思って書いたのはあります。
僕、虚構と現実をテーマにすることがよくあるんです。
これまでは、想像の世界や物語の世界を無邪気に肯定する物語がすごく多かったと思います。
今回は、虚構から逃げ出すような物語になっても、現実に向かっていくような話。
虚構と現実が並行して、交わって、さらにその接点から現実へ。
書いているときは自覚していませんでしたが、それ(虚構の肯定)がないっていうのは、僕の中ですごく大きい変化だなと思いましたね。
三浦
本当にうれしかったですね。
演劇を始めた頃から、パルコ・プロデュースの作品をやるのはひとつの目標でした。
コロナ禍で思うように演劇ができなかったり、集客が伸び悩んでいる時期にも、この後にパルコ・プロデュース作品があることを支えにしていたので、本当にうれしいし、ありがたいです。
あとは、電力ホールもなくなっちゃうと聞きました。
その前に上演できるのはうれしいです。
友だちもすごい見に来るって言ってるし、両親もめちゃめちゃがんばって宣伝活動をしてくれているので…。
電力ホール1000人規模だから。
板橋
地方の規模じゃないよ、1000人。
でも、来た人が楽しんでくれればいいよね。
東北では1回しか上演しないんだから、もう、こうなったら1曲歌ってもらおう、れにちゃんに(笑)。
でも、そう言う前に自分ががんばります!
(公演情報)
日時/2024年3月20日(水・祝) 15:00開演
会場/仙台電力ホール(住■仙台市青葉区一番町3-7-1 電力ビル新館 7F)
料金/全席指定9000円、U-25チケット4500円(観劇時25歳以下対象。当日座席指定券と引き換え。要証明書提示)、U-20チケット 2500円(観劇時20歳以下対象。当日座席指定券と引き換え。要証明書提示)
チケット/発売中
チケットに関する問合せ/キョードー東北 022-217-7788(13:00~16:00、土曜10:00~12:00。日曜、祝日除く)
公演に関する問合せ/パルコステージ 03-3477-5858
HP/https://stage.parco.jp/program/iede/