生活になくてはならない必需品ではないけれど、
持っているとちょぴり暮らしが豊かになる。
そんな大人の趣味・趣向を広げてくれる
愛すべきモノを紹介するのがこの連載。
探す楽しみ、手に入れる喜び、そして生活に何を
もたらすか、ひとつひとつのアイテムに眠るモノ語りを
丁寧に紡ぎます。どうぞお付き合いください。
ジャズをしっかり聞くようになったのはいつだろう。今思えば、その入り口は自分の好きなものに沢山転がっていたんです。音楽でいえば好きなヒップホップアーティストやDJのトラックがジャズをサンプリングしていたり。僕ら世代のレジェンドスケーター、マーク・ゴンザレスが自身のイメージビデオでジョン・コルトレーンの楽曲をバックに滑っていたり。90年代にファッションフォト界で一世を風靡した巨匠、ブルース・ウェーバーがチェット・ベイカーを描いたドキュメンタリー「Let’s get Lost」を見て心がときめいたり。個人的に好きな漫画ベスト5には入る「岳」を書いていた石塚真一氏が、ジャズ漫画「BLUE GIANT」を発表したり。上げればキリがないほど気が付けば自分の趣味のベースにはいつもジャズがあり、好きになるのは必然だった気がします。そしてさらにジャズ愛を加速させたのが、5年ほど前に雑誌で個人宅のこだわりのオーディオを取材した時でした。JBLのC38(バロン)というビンテージスピーカーから流れる音は、録音された空気感まで感じ取れるような臨場感に溢れていて感動したのを今も鮮明に覚えています。その体験以降すっかりオーディオ沼の住人となり、それをきっかけにレコードでジャズを聴くのが特別な時間になりました。
こだわりのオーディオでのレコード鑑賞を趣味としてからは、週1回は必ずレコード屋に足を運び、新譜と中古盤を漁るのが定番となりました。昨今はアナログブームでレコードに興味がある若者が増えた影響もあり、当時買えなかったレア盤が再プレスされる機会も増えています。最近手に入れたディー・ディー・ブリッジウォーターの『Afro Blue』とファラオ・サンダースの『PHAROAH』がまさにそれです。2枚ともオリジナル盤はかなりレア盤で待望の再リリース。ジョン・コルトレーンの名曲をベースに、ディー・ディー・ブリッジウォーターのソウルフルで澄みわたるヴォーカルを乗せた表題曲が、今聞いても新鮮な『Afro Blue』。そしてこちらもコルトレーンと縁深いファラオ・サンダースのアルバムの中でももっとも美しい1枚と評され、メランコリックなリズムと味のあるテナーサックスのコントラストが心地よい『PHAROAH』。スピリチュアルジャズの名盤として語り継がれるこの2枚に収録された曲は、聞いていると自然と心が鎮まるものばかりで、夏に涼しい部屋でまったり鑑賞するのにおすすめです。
日本のジャズシーンにおいて多大な功績を残すアーティストの再プレスも近頃目にする機会が増えました。最近買ったLPだと、聞くだけで自然と心が躍りだすような、とびきりファンキーなジャズ・ロックナンバーを収めた板垣次郎とソウルメディアの『HEAD ROCK』。1970年リリースのこのLPと1974年に発表された『FUNKY STUFF』は、ここ最近かなり頻繁に聞いているお気に入りです。そして当時100枚しかプレスされなかったという幻のLP、高柳昌行氏の『侵蝕 エクリプス』待望の復刻盤も最近手に入れた1枚。フリージャズの金字塔と名高いこの一枚は、まるで終始ギターノイズを聞いているような正直とても難解なアルバム。でも鑑賞するときの時間やテンションで不思議と印象が変わるのが面白く、部屋を暗くして集中して音を聞くと、まるで宇宙を彷徨っているような不思議な感覚を体験できる気がします。
サブスクの普及で最近はどんな音楽でもアクセスしやすく、気になる曲があればすぐ検索して聴けるので本当に便利ですよね。でも、そもそもの音楽の知識や興味を広げるには、ネット上では味わえない「体験」が必要だと思うんです。ライブで生の音に触れたり、レコード屋で店主からおすすめを紹介してもらったりと、何かを体験することで知った音楽は、その時の情景が浮かんだりと付加価値が付きより思い入れが強くなると思います。今回紹介した4枚はいずれも仙台を代表する老舗ジャズレコードショップ『DISK NOTE』で手に入れたもの。店主の河内さんとお話をしていると「それならこれもおすすめだよ」といつもリコメンドしてくれるのですが、本当にどのレコードも個人的に当たり盤でジャズの知識をより広げるには頼りになる存在です。自宅で過ごすことが増え、ゆったり音楽に浸れる時間がとれるこの機会に、デジタルの音源とはまた違った、レコードが鳴らす優しく味わい深い音を堪能してみてはいかがでしょうか。
写真・テキスト_鮫島雄一(編集部)