Kappo 仙台闊歩

TRAVEL 2023.05.03

東北のアートを旅する 山形県酒田市『土門拳記念館』【Kappo2023年5月号】

写真=池上勇人 TEXT=川野達子

Kappo5月号の巻頭特集「東北とアート」の中から、2023年に開館から40周年を迎える山形県酒田市の『土門拳記念館』をご紹介します。

『土門拳記念館(どもんきねんかん)』(山形県酒田市)

主要展示室には「古寺巡礼」シリーズなど、主に大型の作品を展示。ソファの設置もあり、ゆっくり観覧できる。

新たな土門拳の魅力を
新鮮な切り口で魅せる

周囲の自然に溶け込む『土門拳記念館』。土門と親交の厚かった建築家・谷口吉郎の長男、谷口吉生が設計を担当した。

中庭には、イサム・ノグチが製作し「土門さん」と名付けた彫刻が立っている。

企画展示室Ⅱではこの日、「筑豊のこども たち-Smile-」を展示。失業や貧困といった社会問題を写し出したとされる写真集『筑豊のこどもたち』を「スマイル」 というキーワードで改めて振り返り再考 する、意欲的な企画だった。ガラスの向 こうは勅使河原宏が手掛けた庭園「流れ」。

「古寺巡礼」や「ヒロシマ」「風貌」など、昭和の激動期を独特の視点で切り取り、数々の話題作を世に送り出した写真家・土門拳(1909〜1990)をテーマに、1983年に開館した日本で最初の写真美術館。
土門の寄贈による作品、約13万5000点を所蔵しており、その保存と研究、展示に取り組んでいる。
〝現実の世界〞を写すことに土門は徹底してこだわった。
「カメラとモチーフの直結」「絶対非演出の絶対スナップ」といった独自のスローガンとともに、自らの写真表現を追求した。
「リアリズムの巨匠として確かに広く知られています。しかし土門自らリクエストして人を手配し、演出した作品も中にはあるんです」と学芸員の田中耕太郎さんが自らの企画展示で解説する。
2年前に同館に着任した田中さんが企画を担当するようになった昨年から、新しい切り口で土門の作品や作家性に迫る展示が続いている。
「すごい写真家ではあるけれど、既存の評価の中でしか語られなかった部分がたくさんあるんです。これまで焦点の当たらなかった側面や、まだ世に出ていない作品にもスポットを当てながら、ステレオタイプとは異なる要素を見せていきたいと考えています」
今年10月に開館40周年を迎えるが、ここ数年の入館者数はピーク時の3分の1にも満たない状況だという。
「土門は酒田の財産。彼が愛した土地で輝いてほしい」と田中さん
。13万点を超える所蔵品の中には、土門の多様性に触れられる作品が数多く残されている。
「そうした作品の下支えの上に『古寺巡礼』があることを知ると、従来のイメージが変わり新たな視点が生まれ
ます」。
あまり知られていない実験的なシリーズも1950年代初め頃までの作品には多いといい、「完全なる新作の展示はできませんが、土門の評価やイメージを更新していける資料はたくさん残っています。そういった作品も含めた新鮮な切り口で、地元の人も観光で来られた人にも楽しんでいただけるよう、スタイリッシュに魅せていきたい」と静かに熱く語る。
4月6日から40周年記念特別展「名取洋之助と土門拳–社会的写真を求めて–」を開催する。
「素人同然の土門を鍛えたのが名取です。2人の関係と作品の変遷を、戦争を挟む激動の時代背景とともに改めて振り返ります」。
生誕120年の棟方志功特集も予定している。
「絵画と土門拳というテーマのもと、土門と特に親交が深かった棟方のコーナーを設ける予定です」
『棟方志功記念館』は来年3月での閉館が決まっている。
地方美術館の厳しい現状を踏まえつつ、10年先、20年先を見据えた『土門拳記念館』の改革がはじまっている。
見るものの感性を揺さぶる作品だからこそ、田中さんを通して共有する新たな土門拳像は、新鮮な驚きに満ちているはずだ。

次回展覧会「開館40周年記念特別展 山形県酒田市 名取洋之助と土門拳 -社会的写真を求めて-」

4月6日(木)~7月9日(日)
日本における「報道写真」の草分け的存在である名取洋之助と、彼のもとで「報道写真」に情熱を注いだ土門拳。
2人展の形でその活動を振り返るはじめての展覧会。

土門拳記念館(どもんきねんかん)

住所
山形県酒田市飯森山2-13 (飯盛山公園内)
電話
0234・31・0028
時間
9:00~17:00(入館~16:30)
休日
4~11月は無休(臨時休館あり)、12~3月は月曜(祝日の場合は翌日)
WEB
https://www.domonken-kinenkan.jp/

Kappo5月号は、宮城県内の書店、Amazonマチモールほかで発売中。

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