写真=池上勇人 TEXT=川野達子
Kappo11月号は、「東北ワインの造り手に会う」と題した、東北のワイナリー特集です。今、日本のワインは世界中から注目を集めており、東北のワインも人気が高まっています。『Kappo』では10年前に「東北ワインの実力」という特集をしましたが、それからどんどんワイナリーの数が増えています。老舗はさらに深化し、皆さんがそれぞれ個性あふれるおいしいワインを造っています。その中から編集部が実際に飲んで、“会いに行きたい!”と思った、東北6県のワインの造り手に会ってきました。その中から、宮城県七ヶ宿町にある『Yuz farm & vineyard(ユズファーム&ヴィンヤード)』をご紹介。1本のワインに詰まったたくさんの〝東北〞を、感じてください。
七ヶ宿町を取材で訪れたのは、9月上旬だった。
ブドウもよく色づき、そろそろ収穫か、と訪ねてみた。
「並のワインを造るなら、もう収穫したい頃合いでしょう。でも、本当においしいものを造りたいなら、あと1カ月は必要。僕が目指すのは、人の心に届くワイン。せっかく原料から手をかけられるのだから、妥協したくないですね」
力強く話すのは、『ユズファーム&ヴィンヤード』の代表を務める荒井謙さん。
シャルドネやピノ・ノワールなど栽培しているワイン用ブドウの多くに、世界で実績のあるクローン品種を導入。
言わば、血統書付きのブドウだ。
「想定よりも畑作りに時間がかかりました。だったら、とことんやろうって」と笑う。
大学・大学院でワイン用ブドウの味や香りについて研究し、長野県のワイナリーに入社。
品質と生産量、どちらも求められる中規模ワイナリーだったため、「畑の管理から醸造、製造、直営店の店長まで、いろいろな経験をさせてもらいました」と振り返る。
2016年に、学術的研究の実績と醸造における実務経験から「エノログ(ワイン醸造技術管理士)」を取得。
2019年に30歳で独立した。
ワイナリーを立ち上げるにあたり、七ヶ宿町を選んだ。
荒井さんの祖父母がかつて暮らしており、子どもの頃によく遊びに来ていた場所。
自身が経験を積んだ長野の気候と似ていると感じ、町内で唯一の果樹栽培地を引き継いだ。
ブドウ畑を造る一方で、前の園主が植えた樹を活用してシードル用のリンゴを栽培している。
「あえて最低限の摘果とし、小さいものがたくさん生るように育て、フレーバーを多く持つ皮の比率を高めようとしています。シードルは酸が大切なので、生食用のリンゴ農家ではあり得ないことですが、収穫もあえて早めに。また、リンゴは土台となる樹に目的の品種の枝を接げば、3年くらいでその品種の実が付きます。元々、加工用で実績のある紅玉をメインとしてきた園ですが、さらにシードル向けに酸の高い海外品種のグラニースミスなどに更新を進めています」
経験と実績に裏付けられた、根拠のある畑造り。
それに伴う自信もある。
2、3年後には醸造所の建設も予定されている。
「今から楽しみでしょうがない」というのは、荒井さんだけではないはずだ。