写真=鈴木信敏 TEXT=鎌田ゆう子
果樹栽培が盛んな岩手県花巻市は、ワインとシードルの特区に認定されています。市内に6軒あるうち、4軒のワイナリーが集中している大迫地区。岩手県内最古のワイナリーや、新規就農してワイン造りにチャレンジしている人など、多種多様。個性あふれる大迫地区のワイナリーを訪ねてみました。今回は『エーデルワイン』をご紹介します。
町内のあちこちにブドウ畑が点在する花巻市大迫町。
この地でブドウ栽培が盛んとなったのは、1947(昭和22)年とその翌年に襲来したカスリーン、アイオン台風により、主要産業だった葉タバコが大打撃を受けたことに端を発する。
当時の県知事・国分謙吉が、大迫町の気候や地形がワインの名醸地であるフランスのボルドーと似ていることに着目し、「大迫町を日本のボルドーに」を合言葉に、葉タバコに代わる産業としてブドウ栽培を奨励したのだ。
さらに1962(昭和37)年には町役場と農協が中心となり、県内初のワイナリーである「岩手ぶどう酒醸造合資会社」を設立。
1974(昭和49)年、「岩手ぶどう酒醸造合資会社」は『株式会社エーデルワイン』となり、より本格的なワイン生産をスター
トさせた。
以来、大迫町は『エーデルワイン』と共に、ブドウとワインの産地としての地位を確立していったのである。
昨年、創業60周年を迎えた『エーデルワイン』。
「良いワインは良いブドウから」という企業理念のもと、1.2haの自社圃場でブドウを栽培している。
しかし自社栽培しているブドウは試験的な部分も含まれているため、『エーデルワイン』として市場に出回る9割以上は地元の生産者が栽培したブドウを原料に造られている。
現在、醸造用品種で契約しているブドウ生産者は35名。
「すぐそばに立つ公営の『花巻市葡萄が丘農業研究所』との連携により、この地に合うブドウの品種の選定や、栽培方法の試験などを行っています。適地適品種を目指して、一緒になって取り組でいます」と、製造・醸造を統括する工場長の藤原欣也さんは語る。
生産者の栽培技術向上を図るため、葡萄が丘農業研究所やJAなどとも連携し、定期的に栽培指導会なども実施。
また、枝に残すブドウの房数を絞ることで、濃縮した味の果実に仕上げる収量制限も品種ごとに設定し、品質の向上にも努める。
毎年、50ℓの小型タンクを使用し、生産者ごとのワインを醸造するのも、その年のブドウの出来がどんな味わいになるのかを知ってもらい、よりよいブドウ作りの励みにしてもらうためだ。
こうした取り組みの甲斐あって、生産者にも「良いワインは良いブドウから」という認識が浸透してきているという。
「ある生産者さんから、『自分たちは質の良いブドウをエーデルワインに提供する義務がある』と言っていただいた時には本当にうれしかったですね」と、藤原さんは笑顔を見せる。
『エーデルワイン』が目指しているのは、「この地に適した品種を見極め、その品種の個性をワインで表現すること」。
例えばフラッグシップワインの「五月長根リースリング・リオン」は、岩手県の代表品種であるリースリング・リオンを原料として醸造した、ほどよい酸味と果実味のある白ワインだ。
岩手の冷涼な気候に合うツヴァイゲルトレーベを樽熟成させた「ゼーレ・オオハサマ樽熟成」は、甘い香りと適度な渋味・酸味が特徴の辛口赤ワイン。
8年前から栽培を始めたオーストリア原産の白ブドウ品種、グリューナー・ヴェルトリーナーもまたこの地に合い、熟した柑橘香と穏
やかな酸味、柔らかな口当たりを醸し出す。
テロワールを重視したブドウ作りと丁寧な醸造が評価され、近年、国内外のワインコンクールで多数入賞するようになった。
世界最大級のワインコンクール「オーストリア・ウィーン国際ワインコンクール」では、日本のワイナリー唯一の1つ星を2018年から連続して獲得中だ。
「これからも消費者に好まれるワイン造りを大切にしつつ、ブランド価値を高める世界レベルのワインにも挑戦していきたいです」と意気込む藤原さん。
今年も月末までブドウの収穫とワインの仕込みが続く。
「春先の霜や夏の猛暑でどうなるかと思いましたが、雨が少なく日照時間が長かったことが幸いし、品質のよいブドウで醸造ができています」と、安堵の表情を見せる藤原さん。
2023年産ブドウで醸したワインの出来が今から楽しみだ。