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TRAVEL PR 2024.08.13

【青森県】AOMORI GOKAN アートフェス2024を編集部がレポートします②

TEXT=編集部 写真=齋藤太一(八戸市美術館外観)

《5つのスポットでアートと文化を楽しむ、新形態のアートフェス》

地域に根差して活動する各館のキュレーターが、2024年度のテーマ「つらなりのはらっぱ」を各館で様々に解釈し、テーマに合わせた展覧会やプロジェクト、パフォーマンスなどを実施する新しいアートフェスが青森県内で開催中だ。
“はらっぱ”に来れば、往来する人や動物、季節によって変わる植物など、さまざまな顔ぶれが並び、それぞれが思い思いに過ごす場所。
同時に、その場を同じくするもの同士との交流が生まれる場所でもある。
5つの美術館やアートセンターがまさに〝はらっぱ〞のように機能し、それぞれの個性的な活動の〝つらなり〞から新たな関係性が紡がれていく様を体現している。
今回、編集部が5館すべてをまわり、どんな展示がされているのかをレポート。
スタートと同時に制作が始まった作品や、これから完成するものなど、今この5館でどんな体験ができるのかを紹介する。
青森市、弘前市、十和田市、八戸市に点在している5つの美術館・アートセンターをめぐり、その土地の食、伝統、文化に触れながら、青森を体感する旅をしてみてはいかがだろうか。

3)弘前れんが倉庫美術館(ひろさきれんがそうこびじゅつかん)
4)十和田市現代美術館(とわだしげんだいびじゅつかん)
5)八戸市美術館(はちのへしびじゅつかん)

レポート①はこちら
1)青森県立美術館(あおもりけんりつびじゅつかん)
2)青森公立大学 国際芸術センター青森[ACAC](あおもりこうりつだいがく こくさいげいじゅつセンターあおもり)

 

3)弘前れんが倉庫美術館

ⒸNaoya Hatakeyama

2つのメイン企画で、青森、弘前とのつらなりを体感

メイン企画①
「蜷川実花展 with EiM:儚(はかな)くも煌(きら)めく境界 Where Humanity Meets Nature」

『弘前れんが倉庫美術館』では、2つのメイン企画を実施する。

「蜷川実花展 with EiM:儚(はかな)くも煌(きら)めく境界 Where Humanity Meets Nature」では、写真家・映画監督の蜷川実花が、クリエイターらと結成したクリエイティブチーム・EiMとの協働のもとで実現した大規模個展。
6つの章で構成され、それぞれの空間でインスタレーションのほか、弘前をはじめ日本各地で撮影した桜、四季の花の写真などを展示。
蜷川は、講演の花や花の名所など“人の手で育まれた花々”に惹かれるそう。
花の中でも桜は蜷川にとって特別な存在であり、桜の名所として知られる弘前公園には2022年から毎年撮影に訪れている

天井が高い3つ目の展示室には、造花を組み合わせた大型作品と映像が織りなすインスタレーションを展開。
視界いっぱいに色とりどりの風景が広がり、まるで万華鏡の中にいるような感覚だった。

最終章の「弘前の春」は、弘前公園の桜の花筏や夜桜など、弘前の春の風物詩を切り取った作品を展示。
弘前に暮らす人にとっては当たり前の風景も、写真家の視点だとまた違った魅力が浮かび上がる。
弘前の桜の素晴らしさを再認識するきっかけになりそうだ。

展示室内は動画、写真の撮影が可能。
どう撮っても絵になる空間なので、この日も多くの人がスマートフォンを片手に作品を向き合っていた。

「四季の花々」展示風景より。

「Sanctuary of Blossoms」。造花を組み合わせた大型作品と、映像のインスタレーションで彩られる。

第4章の「うつくしい日々」。父である故・蜷川幸雄氏との別れまでを振り返る。

「弘前の春」。弘前公園の桜まつりの一瞬を切り取った作品が並ぶ。

弘前れんが倉庫美術館 メイン企画②
「弘前エクスチェンジ#06『白神覗見考(しらかみのぞきみこう)』」

もう一つのメイン企画が、開館以来続く「弘前エクスチェンジ」の6回目。
弘前市を含む津軽平野を流れる岩木川の源流の地・白神山地をテーマに実施するリサーチ・プロジェクトだ。
アートフェス期間中は、狩野哲郎、佐藤朋子 、永沢碧衣(あおい) 、L PACK.(エルパック)の4 組のアーティストたちが、それぞれの視点で作品展示やワークショップ、トークイベントなどを実施する。
狩猟免許を持つ狩野哲郎は、白神山地が世界遺産に登録されたことを機に決められた禁足エリアが、人や動物にどんな変化をもたらしたのかに注目。
「弘前れんが倉庫美術館」や青森とゆかりのある素材を使った立体作品を、美術館と中央弘前駅舎内「ギャラリーまんなか」、HIROSAKI ORANDOで展示している。

佐藤朋子は現在拠点としている台湾と韓国に加えて弘前と白神山地をめぐり、リサーチ。
今回の自身のプロジェクトを「向こう側研究会」と名付け、ワークショップの参加者とのふれあいや研究の成果を随時更新して公開している。
秋田・横手市を拠点に活動している永沢碧衣は、狩猟経験をもとに制作した絵画を展示。
熊の皮から抽出した膠で絵の具を溶き、作品に使用している。

永沢碧衣《山懐を満たす》 2024年

狩野哲郎《系(接木のシャンデリア)》2024年。エントランス脇にある。

中央弘前駅のギャラリースペース『ギャラリーまんなか』。狩野哲郎《一本で複数の木》2021年、《Mirrored Mirage (Rectangle)》2014年、《Mirrored Mirage (square)》2014年。

共通企画・栗林隆《元気炉》は、8月28日(水)から9月1日(日)の会期末に展示。
L PACK.は、弘前市の夏まつり“宵宮”からインスピレーションを受け、《元気炉》のイベントに合わせて体験型の作品《いっしょくたにへば たげめぐなるはんで》を8月30日(金)から9月1日(日)まで開催する。
独特なメニューを考えているようなので、こちらも楽しみだ。

弘前れんが倉庫美術館

住所
青森県弘前市吉野町2−1
電話
0172-32-8950
時間
9:00~17:00(入館は16:30まで)
休日
火曜 (祝日の場合は開館、翌日休み)
WEB
https://www.hirosaki-moca.jp/
備考
料金/一般1500円、大学生・専門学生1000円、高校生以下無料

4)十和田市現代美術館 メイン企画 「野良になる」

Towada Art Center

自然と人間の関係性を考える

現代アートの常設展示が充実する『十和田市現代美術館』。
アートフェスのテーマ「つらなりのはらっぱ」を“自然と人間の交わるところ”と解釈し、企画展「野良になる」を開催。
年々不安定になる自然環境との関係性を再考する必要が出てきた近年。
自然を収奪してきた“人間”が、自然を守ることができるのか。
国内外の若手作家4名が多様な視点から自然をとらえた作品を紹介している。

企画展示室内では、丹羽海子の《メトロポリス・シリーズ:太陽光処理施設》が目に入る。
ペットボトルや家電など、廃棄されたもので作られた架空の都市に、人間によって害虫として駆除されたり、ペットの餌となったりするコオロギが集まっている。
消費社会と叫ばれて久しい現代社会を揶揄するような彫刻インスタレーションだ。
壁面には、ウールを用いたテキスタイルで表現する䑓原蓉子の作品。
奥入瀬渓流や恐山、六ケ所村などを訪れ、ときに畏怖すら感じる自然と、そこに暮らす人々とのつながりや、東京に暮らす作家の身の回りの自然の観察を織り交ぜた5点が彩る。

丹羽海子 《メトロポリス・シリーズ:太陽光処理施設》の一部。

よく見てみると、小さな二足歩行のコオロギが集まっている。

ブラジル出身で近年は日本を拠点に活動するアナイス・カレニンは、東北で近代化する以前の人々と植物との関係性や、現代の森林の管理方法をリサーチ。
展示室内では新作の彫刻と香り、写真を組み合わせたインスタレーションを展示している。
色素を抜いた植物は、葉脈までくっきり。
自然の造形の美しさに思わず息を飲む。
さらにアナイス・カレニンは、中庭で音と植物で構成するインスタレーションを展開。
東北に自生する木々や草花を一同に集めて美術館の庭に植え、季節ごとの変化を見ていく。
同時に、それらの植物のアイヌ語名を音階に変換したサウンドを展示。
心地よいサウンドで、時の経過を忘れるような空間だった。
企画展示室の最奥と、休憩スペースでは永田康祐の映像作品を上映。
十和田湖のヒメマス養殖に関するリサーチを経て、養殖での人とサケ科の魚との関係性に関心を持った永田。
養殖場の鮭、鮭に寄生する海シラミ、養殖業者である人間という複数の視点で世界を想像する 《鮭になる》と、人間の立場から多種の視点を想像することを文化人類学者やアーティストらとディスカッションした《鮭になる方法》を上映している。
その視点はなかった、と思わず膝を打つ内容だった。
《鮭になる》はアニメーション作品なので、室内では子どもたちも楽しそうに鑑賞していた。

アナイス・カレニンのインスタレーション。《植物であったことはない》左「名無き遷移」、右「計り知れない物質化から」。

《植物であったことはない》「名無き遷移」の一部。ブラジルに古くから伝わる技法を応用して植物の色素を抜いている。

アナイス・カレニン《植物であったことはない》「地上へ上昇する」。透明の筒からサウンドが流れる。

常設展示には、フェスのクライマックスとも言える《元気炉》の作者・栗林隆の作品も。
十和田市現代美術館での《元気炉》の展示は、8月24日・25日の2日間だ。
さらに9月8日まで十和田市現代美術館のサテライト会場「space」にて、尾角典子の個展「#拡散」を開催。
展示は人型にくり抜かれたパネル、マイク、2台のモニターと、それに接続された画像生成AIなどを用いたインスタレーション。
鑑賞者が自分の名前をマイクでAIにインプットすると、モニターに表示されている「space」が変化。
その結果をインスタグラムで拡散することを促されるというものだ。

小説家ウィリアム・バロウズの「Language is a virus from outer space(言語は外部から来たウイルス)」という一節に着想を得て制作されたそう。
この期間しか十和田で体験できないものばかりが集うまたとない機会だ。

十和田市現代美術館

住所
青森県十和田市西二番町10-9
電話
0176-20-1127
時間
9:00~17:00(最終入館 16:30)
休日
月曜(祝日の場合は開館、翌日休館)
WEB
https://towadaartcenter.com/
備考
料金/大人1800円※常設展示のみの観覧券は1000円、会期~11/17(日) エントランス写真/ジム・ランビー《ゾボップ》2008年 撮影:小山田邦哉

5)八戸市美術館 メイン企画 「エンジョイ!アートファーム!!」

参加型プロジェクトで、アートフェスの一員に

アートを通した出会いが人を育み、人の成長がまちを創る「出会いと学びのアートファーム」をコンセプトとしている「八戸市美術館」。
フェスの開催に合わせ、館の象徴とも言える広々としたフリースペース「ジャイアントルーム」を“はらっぱ”に見立て、出会いと学びのアートファームを体現するプロジェクトを行っている。
プロジェクトには八戸市在住の5組のアーティストが参加。
フェスのスタートと同時にプロジェクトがスタートしているため、入口すぐに各アーティストの進捗状況を記したボードを設置。
これまでに行ったワークショップやイベントなどを経て、最終的な作品をつくりあげたアーティストもいる。
期間後半となる現在は、その成果を視覚的に体感できる作品が展示されている。
参加アーティストは磯島未来、漆畑幸男、しばやまいぬ、蜂屋雄士、東方悠平。
ダンサー・振付家の磯島未来は、【あなたからダンスを紡ぐ】と題したプロジェクト。
ジャイアントルームを訪れた参加者と対話し、話のキーワードからその人のための振付を制作。磯島と、ときには参加者も加わって踊り、その場にいる人達に披露するというもの。
8/4にはそれまでの振付を再構成したソロダンスパフォーマンスを開催したほか、現在は制作したダンスの動画が上映されている。
8/25(日)には最後のワークショップが予定されており、その日つくられた振付を見ることができる。
漆畑幸男は【幸福の画家】と題し、作品の展示のほかに来館者と1枚の大きな絵を制作。
現在は、来館者から集めた漆畑の作品の解説をもとに制作した画集を見ることができるほか、ジャイアントルームに漆畑の絵をもとにした塗り絵があるので、こちらは気軽に参加できる。
【はちや写真館 家族と写真のプロジェクト】 を立ち上げた写真家・蜂屋雄士は、参加者が持ってきた家族写真で家族紹介をしてもらったあと、蜂屋から見た参加者家族を美術館内敷地で写真に収めるワークショップを行い、展示に仕立てた。

5組のアーティストによるプロジェクトの進捗状況。

取材時にジャイアントルームのメインとなっていたのは、少女板画作家・イラストレーター、しばやまいぬの【くにゅぎの森3D】。
版画の世界を3Dで再現した「くにゅぎの森」の入口には、この森の世界観を表現した版画作品「夜は短しとびだせ乙女」が展示されている。
この「くにゅぎの森」では木版画から生まれた虫捕りができ、捕まえた虫に色を塗ったり、“みの”を着せたりと参加者の創作を促すしかけもある。
さらに、来館者の手によって新種の虫が発見(創作)されることもある。
新種はイラストで描かれ、それらの中からいくつかをしばやまいぬが版画で制作。
来場者とアーティストがともに森を育てるプロジェクトだ。
アーティスト・東方悠平による【自由の像、不自由なバナナ】は、プランテーション栽培やそこで働く労働者、交配されていまの姿になったバナナなど、“不自由なバナナ”と野生のバナナを介し、自由について考えるワークショップやピクニックを開催。
その成果物として、おいらせ町にある自由の女神像から着想した現代版の“自由の女神像”を展示する。
ベトナムや東南アジアと関わりの深い東方ならではの着眼点。
おいらせ町の自由の女神像や、実際にバナナを栽培している「アグリの里おいらせ」など、八戸近隣地域とのつながりを導き出したのがおもしろい。
お盆休み頃には、自由の女神像は完成している予定だ。

東方悠平《自由の像、不自由なバナナ》2024年。青いバナナを制作することもできる。

しばやまいぬ《夜は短しとびだせ乙女》2024年。木版画は独学で身につけたそう。日によっては制作中の作家本人に会える。

しばやまいぬ《くにゅぎの森 3D》。コンクリートから"くにゅぎ"の木が生えてきている。

ジャイアントルームの片隅に、SNSで話題となった看板の“美”の文字の展示もあった。

現在、館内ではクリエイティブ・ユニット tupera tuperaによる「かお」をテーマにした展覧会「tupera tuperaのかおてん.」を同時開催。
5館共通企画の栗林隆《元気炉》は、8月18・19日、21日に開催。
また、8月24日(土)には5組の参加アーティストによるトークイベントも実施する。
参加希望の場合はこちらから申し込みを。
大人も子どもも楽しめる参加型のプロジェクト、ぜひ足を運んでみてほしい。

 

八戸市美術館

住所
青森県八戸市大字番町10−4
電話
0178-45-8338
時間
10:00~19:00
休日
火曜 ※8/13は開館
WEB
https://hachinohe-art-museum.jp/
備考
入館料/展覧会ごとに異なる※アートフェス会場は無料

◆AOMORI GOKANアートフェスのホームページはこちら

◆編集部レポート①はこちら

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