Kappo 仙台闊歩

NEW SPECIAL 2025.09.30

津波と共に生きる町・田老  <学ぶ防災ガイド>佐々木純子さん インタビュー 『Kappo特別編集 岩手版 旅情編』より

写真=呉島大介 TEXT=編集部

津波の威力を物語る破壊された第2防潮堤。奥に見えるのは海抜14.7mの新防潮堤。

岩手県田老町と聞いて、すぐに場所を言い当てられる人は少ないかもしれない。しかし「津波の町」と付け加えると、誰もが思い出す。田老はかつて万里の長城とも呼ばれた巨大防潮堤に守られた町である。

しかし、その神話は2011年3月11日、崩れ去った。東日本大震災で町は津波に襲われ、181人もの命が失われた。「逃げ遅れたのではなく、逃げなかったのだと思います」と、ガイドの佐々木純子さんは語る。

防災ガイド・ジオガイドの佐々木純子さん

「てんでんこ」の教え

田老の町には、碁盤の目のように整えられた避難路があり、44カ所の避難場所があった。先人たちは「てんでんこ」という言葉を残し、津波の際は、大切な人を助けに行くのではなく「それぞれが自分の命を守れ」と言い伝えてきた。しかし、伝承が途切れると記憶は風化、やがて「防潮堤があるから大丈夫」という過信に変わってしまった。防潮堤はあくまでも逃げる時間を稼ぐものにすぎない。佐々木さんは「どんなに高くても、防潮堤を頼ってはいけない」と繰り返す。

「学ぶ防災ガイド」として

震災から1年後の2012年、宮古市観光文化交流協会を窓口に「学ぶ防災ガイド」プロジェクトが始動した。佐々木さんはその一人として参加、当初は「自分でいいのか」とためらったが、「あなたは伝えるために生き残ったのでは」と言われ、その言葉に背中を押された。

現在は60分から2時間のコースで、避難道路や津波遺構を案内する。話すことは「恐ろしさ」ではなく「そこから学ぶこと」。防災学習で訪れる子どもたちには「どう行動すれば命を守れるか」を考えてもらうよう心がけている。

 

学ぶ防災ガイドのオフィス「たろう潮里ステーション」にあるかつての田老町のジオラマ。

ジオパークの視点

田老の象徴のひとつに「三王岩」がある。海に屹立する大岩は、地殻変動や津波の痕跡を刻む自然の教材だ。佐々木さんはジオガイドの資格も持ち、ジオの視点でも田老町を紹介している。専門的な地質用語も大事だが「まずは美しさを感じてほしい」と語る。子どもたちは「海がきれい」と素直に感動し、そこから自然に防災の関心が芽生えるという。

高さ約37mの男岩(中央)、約21mの女岩(左)、約13mの太鼓岩(右)。男岩の上部は田野畑層で下部は羅賀層。

「津波遺構 たろう観光ホテル」。見学には事前予約が必要。詳細は学ぶ防災ガイドへ。

津波遺構たろう観光ホテル

津波遺構として保存されている「たろう観光ホテル」の館内では、津波の映像が流され、訪れた子どもたちは言葉を失う。佐々木さんは「遺構を残してくれてよかった」という声を何度も耳にしたという。防災の知識は机上ではなく現地で見て感じること。遺構はそのための「生きた資料」であり、語り継ぎの拠点となっている。

津波と共に生きる町

海は時として津波の恐怖をもたらすが、一方で豊かな海の恵みももたらす。田老の人々は、アワビやウニを育む海に感謝しながら、この地を離れず暮らしてきた。「津波と共存してきた町だからこそ、次の世代に逃げる文化を伝えていきたい。怖さで終わらせず、未来へつなげることが大切です」と佐々木さんは語る。

体験したい方は下記まで

学ぶ防災ガイドコース概要
〇内容:防潮堤での説明、実際に避難道を歩く、津波ビデオ上映(たろう観光ホテルの見学は予約が必須)
〇通常コース:60分(料金1~94000円、10名以上6000
〇エココース(体験コース):90分~120分(料金1~9名1万円、10名以上1万2000
問合せ:学ぶ防災ガイド
0193-77-3305
https://kankou385.jp/special_kiji/4642/

『Kappo特別編集 岩手』(2025年9月12日発売)には三陸ジオパークの記事が掲載されています。

お詫びと訂正
※Kappo特別編集 岩手 P89の記事に間違いがありました。本文中に<震災当時、多くの避難者を受け入れた「たろう観光ホテル」>という記述がありますが、避難者を受け入れた事実はありません。お詫びするとともに訂正いたします。

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