Kappo 仙台闊歩

TRAVEL 2020.04.25

【神様散歩 web版】心で神旅 ~甦った八戸の宝「蕪嶋神社」 前編~

TEXT&PHOTO:三浦奈々依

Kappo本誌で寺社仏閣をめぐる「神様散歩」の連載を担当いただいていた、三浦奈々依さん。最終回を惜しむ声にお応えして、WEB上で連載をスタートします。初回は、三浦さんの故郷・青森県八戸市・蕪嶋神社。前・後編でお届けします。

甦った八戸の宝・蕪嶋神社へ

山笑う春から、緑滴る季節へ。

気がつけば、木々の緑も青々と茂る頃となりました。

不要不急の外出自粛により、私たちの生活は大きく変化していますが、自然は粛々と命の営みを続けています。こういう時こそ、季節の巡りに心を澄ませてみませんか?

夜も明けきらない早朝、近所の並木道を歩く時間が私にとってささやかな楽しみとなっています。

皆さんは、いかがお過ごしですか?

新型コロナウィルス感染拡大防止のため神社参拝も叶わない状況ですが、今日は、いつか参拝に訪れて欲しいという願いを込めて、私の故郷の神社、八戸の蕪嶋神社をご紹介します。

Kappo連載『みちのく神様散歩』で取材に伺ったのは、今から約4年前。

火災により社殿を焼失するという苦難を乗り越え、今年の3月26日、例大祭が執り行われ、見事、再建を果たしました。

甦りの力輝く、蕪嶋神社の晴れやかな空気をお届けします。

焼失した社殿

炎の海に包まれた八戸の宝

八戸の宝、蕪嶋神社全焼。

故郷の母から送られてきた新聞記事の見出しに息が止まりそうになりました。あの日の衝撃は今も忘れることは出来ません。幼い頃から通い慣れた神社は弁財天の御使(みつかい)とされるウミネコと、八戸市民に愛される、まさに八戸の宝。

無人の社殿から出火したのは2015年11月5日の未明のことでした。

あっという間に炎は燃え広がり、野澤俊雄宮司をはじめ、駆けつけた住民たちの前で、無残にも社殿は焼け落ちました。

私が神社へ伺ったのは、火災からわずか一ケ月半後。初詣で上った長い階段を一段一段踏みしめ、頂へ。撤去作業が済んだ神域はがらんとした更地になっていて、うなり声をあげながら境内を吹き抜けていく海風に思わず身震いしたことを覚えています。社殿が燃え尽きるのを見つめていたであろう狛犬は、火災前と変わらぬ姿で、そこに。「神様はここにいます」と言われている気がして、涙がこぼれそうになりました。

「どんなに苦しくても堪えて堪えて、前に向かって進むしかありません。みんなが背中を押してくれる。多くの人の思いを力にかえて頑張ります。再建するまで、私は絶対に涙は流しません」。

あの日、きっぱりと言い切った宮司様。その言葉に並々ならぬ決意を感じました。

更地になった社殿跡

再建へと導いた人々の思い

この記事を読んで下さっている皆さんにとっても、心の拠り所、心の故郷と思える神社があるでしょう。東日本大震災後、神社取材を通じて、人は自分でもどうすることも出来ない何かに遭遇した時、生きる力を得るため、祈りを捧げてきたのだと思いました。

 

野澤俊雄宮司

蕪嶋神社を再建へと導いたのは、神社を大切に思って下さる皆さんお一人お一人の力だと宮司様は話します。

「体調の思わしくない中、息子さんに手を引かれ、社殿のない神社で手を合わせていた人。校内で募金活動をして下さった是川小学校の児童。がんばれ!と書かれた横断幕を手にスーパー前で募金を呼びかけて下さった鮫中学校の生徒たち。そういったお一人お一人の中に、弁財天様の思いと御力を感じました」。

 

支援の輪は瞬く間に八戸から日本全国、海外まで広がり、学校、飲食店、スーパー、銀行と、あらゆる場所に手作りの募金箱が設置され、街の至る所で募金活動が行われました。

私の実家ではゴルフショップを営んでいますが、年に数回開催されるゴルフコンペで募金箱を設置すると、「我らが故郷の神社を護りたい」と、多くの善意が寄せられました。

火災から約4年の時を経て、蕪島の頂に八戸の宝が復活したのです。

今年の3月25日に「御遷座祭」、翌26日に例大祭が執り行われ、一般の皆さんの参拝が可能になりました。

蕪嶋神社の祭神である弁財天は漁業の守護神として広く知られていますが、弁財天は変化し、その時いちばん大切な御力を与えて下さる神様。

「社殿焼失から、新たな再建に向かって進んでいくために必要な支援と勇気を、弁財天様が人を介して届けて下さいました」と話す宮司様は、青空のように晴れやかな笑顔を見せて下さいました。

天女とウミネコ、神龍が舞う

ケヤキや青森ヒバ、南部アカマツといった良質な木材をふんだんに使用した新社殿の階下から吹抜けの天井を見上げると、そこには、蕪の花、笙・竜笛・太鼓・琵琶で雅楽を奏でる天女とウミネコが舞う、天上彫刻『飛天奏(ひてんのかなで)』。

深い悲しみを胸に秘めた仏師が一心に、わずか半年で彫り上げたという天女を見つめていると、今にも、この世のものとは思えぬ美しい音色が聴こえてきそうです。

本殿と拝殿をつなぐ幣殿の天井に描かれた『蕪嶋神龍(かぶしましんりゅう)』は、中国上海出身の水墨画家・白浪(はくろ)作。無限の象徴として描かれる龍は決して尻尾を見せないと言われますが、蕪嶋神龍は海の神である弁財天の御使。ここが神域であるという道しるべを指し示す意味で、荒々しい八戸の海から尻尾を出し、祈りの宝珠を5本の爪で握りしめています。

海から天に向かって勢いよく舞い上がる姿は、見る人を圧倒。

本殿に掲げられた扁額には祭神である市杵島姫命(弁財天)の名前が清らかに輝いています。


蕪嶋神社の魅力は、他にもまだまだあります。

次回は、蕪嶋神龍が宿る八戸の美しい海、空から降ってくる「運」、甦りの力を秘めた蕪嶋神社の御守をご紹介します。

<後編に続く>

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