写真=池上勇人 TEXT=川野達子
新緑から深緑へ移り、東北全体がいきいきとしてくる季節。おでかけ機運が高まっている方も多いかと思います。東北ならではのもてなしや食、文化を感じられる宿をピックアップした7月号の巻頭特集「東北を感じる宿」から、気仙沼大島にある旅館を紹介します。
東北地方の有人離島で最も大きい気仙沼大島。
そのちょうど真ん中辺りの小高い丘に『旅館 明海荘』は立っている。
「最大って言うけど、車で30分もあれば1周できちゃいます」
と3代目を継ぐご主人の村上敬士さんと女将のかよさんがにこやかに出迎えてくれる。
島出身の詩人・水上不二が「みどりの真珠」と称した自然豊かなこの島に2019年、『気仙沼大島大橋』が完成し、気仙沼市街までの往来はとても便利になった。
遊歩道も設置され、陽光きらめく水面を眼下に徒歩や自転車で渡ることもできる。
『明海荘』には定期的に訪れる常連が多い。
いちばんの目当ては女将が腕を振るう豪華な島ごはん。
島の漁師から直接届く活魚の鮮度は群を抜く。
「さばくのはお父さん。調理や盛り付けは私」という分業で、刺身、焼きもの、煮つけなど多彩な料理が供される。
「大島の魅力は海の豊かさ。味わいながら知っていただきたい」と想いを込める。
震災時には旅館を開放し大勢の避難者を受け入れた。自らも被災者でありながら温かい食事を提供するため奔走した。
そんな2人の素には必然的に人が集い、多くの縁が生まれ、それは現在も継続している。
本格的な宿の改修に踏み切れたのも、その縁がきっかけという。
「ボランティアに来てくれた関西の高校生が、『新婚旅行は明海荘へ』なんて言ってくれるから」と、かよさんはうれしそう。
「お客様が笑顔になれる場所にしたい」と館内にエレベーターを設置。
その優しさも、人が集まる所以である。
次第に方言にも耳慣れて、時々発せられる「ば」が気になってくる。
「〝ば〞はびっくりした! という場面でよく使う」と敬士さん。
共通語で言うところの「あれ」や「まあ」にあたる感嘆詞だそう。
「〝ばー〞と伸ばしたり〝ばばばば〞と連呼したりしてびっくりの度合いを表現するんです(笑)」
心づくしの料理を味わいながら地域の話題で和むのも、旅の醍醐味である。