新緑から深緑へ移り、東北全体がいきいきとしてくる季節。おでかけ機運が高まっている方も多いかと思います。東北ならではのもてなしや食、文化を感じられる宿をピックアップした7月号から、山形県上山市の『橋本屋』を紹介します。
春告げ花のあたたかさを敷きつめたような「まんさく」。
坪庭が夏の茶室を思わせる「たけかご」。
紅花染にも似た秋の夕焼け色が美しい「紅のはな」。
『橋本屋』の「はたご蔵うさぎ野」の6つの蔵戸の中には、上山・葉山の四季を映したような光景が広がる。
ひとつずつすべて趣が異なるから、訪れるたびに違う部屋を楽しみ、6室を巡ったのちいちばんのお気に入りに落
ち着く人が多いそうだ。
源泉掛け流しの露天風呂に身を浸せば、風と共に葉山の樹々の香りと彩りが届く。
ぼんやりと暮れゆく夕方がいい。
涼しい風が風景にぱっきりとした輪郭を与える朝がまたいい。
なにせ部屋付き露天なのだから、どの時間の美しさも独り占めだ。
湯上がりの喉を潤すなら、新設されたラウンジ「満月」へ。
地元・上山の果実酒やワイン、ウイスキーにコーヒーなどがゆったりフリーで楽しめるから、ここを夕食の食前酒とするのもおすすめだ。
また、「音蔵」もぜひ訪れたし。
クラシカルな蓄音機や調度品と最新のオーディオシステムが同居する空間で、豊かな音に浸れるだろう。
ダイニングでの夕食は、蔵王や最上川、日本海の恵みを少しずつ多彩に盛り込んだ品々。
籠盛りの前菜は剥き蕎麦やワラビ真砂、サクラマスのお造り、赤梅甘露煮の黄身衣揚げなど初夏の旬が並んだ。
山形牛のしゃぶしゃぶは、宿特製の塩ポン酢で。
霜降りの旨み濃い山形牛、その甘みを増幅しながらも後味をさっぱりと楽しませる、冴えた味付けだ。
続く料理も洗練されていながらもどこかほっとする味わいの品が多く、上山の人のあたたかさに通じるものがあると思う。
これはきっと朝食もうまいぞ、と気の早い期待をふくらませるのも、この宿の大きな醍醐味だ。
ふと気づけば、館内のそこかしこに兎のモチーフとささやかな野の草花。
さりげなく奥ゆかしい心遣いに、『橋本屋』のもてなしの在りかたを見たのだった。