PHOTO_齋藤太一
※2019年11月発行 Kappo102号に掲載した内容です。
朝顔のように開いた白磁の鉢に、庭で咲いていたヤマゴボウの花を活けた。たったそれだけで、凛とした美しさが漂う。
田代里美さんが仙台で白磁の器を作り続けて約20年になる。暮らしの中からものを生みだすことを身上にしてきた彼女にとって、2019年はひとつの転機だった。「還暦を機に、今後のものづくりの環境を整えたい」。器を作り、使って、見ることのできる場所。作陶と暮らしが一つの線でつながり、循環するさまを感じられる場所として、『Satomi kiln』が昨年8月に誕生した。陶芸教室もできる制作スペースと息子さんが営むカフェ。隣には焼き杉で覆った窯場が立つ。
「器やものが好きで集めていくうちに、大量生産の今の時代、作家を知り、ものをきちんと見ている人は2割くらいだと思うようになって。器には力があると信じているから、まずは使ってもらうためのカフェを作りました。朝、素敵なカップでコーヒーを飲んだら、一日が豊かになるでしょう? 器の力ってそういうことですよ」。美術工芸品や大作に力を入れていた時期もあったが、次第に「暮らしに役立つもの」へとシフトした。不要なものを削ぎ落とし、形の美しさを追求した結果、わずかな反りや膨らみが雄弁な白一色の器となった。「用の美」の精神から、カフェでは彼女の作品でキーマカレーやドリンクが楽しめる。
「もとは小さな森があった場所で、自然をなるべく残したい。ここに来れば何かを感じてもらえるし、私自身もここで作る器に新しい可能性を感じます」。宮城の文化を発信する場として、その輪はさらに広がっていく。