取材・文=川元茂(編集部)
写真=池上勇人
約7万本もの松が生い茂る高田松原で知られた陸前高田市。津波により、死者・行方不明者1757人、被災世帯4063戸という甚大な被害を受けた。
『高田松原津波復興祈念公園』は、国が中核的施設となる丘や広場を設置、広田湾方向と津波がさかのぼった気仙川上流方向を結ぶ「祈りの軸」を中心に、『奇跡の一本松』、道の駅『高田松原』、伝承と防災教育の拠点『東日本大震災津波伝承館・いわてTSUNAMIメモリアル』、震災遺構『タピック45』『気仙中学校』、海岸防潮堤など、国、県、市が連携して造り上げた。奇跡の一本松が残ったこの場所で、犠牲者への追悼と鎮魂の思いを胸に、震災の教訓と復興の姿を、高田松原の再生と重ね合わせ未来に伝えていく目的で整備された。
まずは『東日本大震災津波伝承館』へ。震災から復興の過程を体系的に学ぶことができる館内は、「歴史をひもとく」「事実を知る」「教訓を学ぶ」「復興を共に進める」の4部で構成され、資料約150点が展示されている。
副館長の熊谷正則さんは「スタッフには学芸員や教員もおり、解説員が展示解説をするなど、ミュージアム機能を備えております。英語や中国語での対応も可能です。一人でも多くの方に学ぶ機会を提供したいという思いから、当館は入場無料です」と語る。
展示は東北大学災害科学国際研究所と岩手大学地域防災研究センターが学術支援し、最新の知見を反映。「東日本大震災の事実と教訓を伝える、津波災害の世界的な学習拠点を目指しています」と熊谷さんは意気込む。
「歴史をひもとく」ゾーンには過去の津波が年表や地層の標本とともに示され、「事実を知る」ゾーンには、屋根のつぶれた消防車両、折れ曲がったバス停や駅の看板など、津波の脅威を感じさせる展示物が並ぶ。
「教訓を学ぶ」ゾーンでは、消防団、漁業無線局、建設業、自衛隊、医療関係者らの命を救うための初動がパネル展示され、国土交通省東北地方整備局の災害対策室が再現されるなど、当時の知られざる救援活動が胸に迫る。
「生きるための避難」コーナーでは、津波襲来時に人々がどう行動したのかを振り返り、「未来をつくる」コーナーでは、自らが考え行動することの重要性をてんでんこの思想を通じて学ぶ。
「昨秋は3カ月で1万人の修学旅行生を受け入れました。見学前から防災減災を学習し、見学後もフォローできるよう震災津波伝承ノートをお配りしています。一般の方はもちろんですが、多くの児童や生徒に見学に来てほしいと願っています。最低でも1時間、見学の時間を取っていただくようお願いしています」
見学を終え、津波伝承館と道の駅をつなぐ「復興の軸」から「祈りの軸」へ。交差する中央部には水盤が設けられ、グリッド状に配植された16本のケヤキを水鏡のように映しこむ。樹々を抜けると献花台があり、花が手向けられている。周辺から遮蔽された静謐な場を創出するため、東西に築山を設けたという。
追悼式典も行われる広場のなか、古川沼に架かる人道橋を経て、階段を上る。潮騒とともに海への眺望が開かれていく。防潮堤の最上部には、「海を望む場」が設けられ、献花台が置かれる。眼前に広がる広田湾の壮大さに心震え、花を手向ける。
自然への畏怖と犠牲者への追悼。津波を正しく恐れ、海とともに生きる。頭を垂れ、祈りをささげる。「ここに立つと自然と合掌してしまいます。亡くなった方、行方不明の方に想いを馳せる鎮魂の場所です」。10年を迎える春、この場所に立ち、静かに海を見つめたい。