Kappo 仙台闊歩

SPECIAL 2021.03.12

震災遺構をあるく② 気仙沼市東日本大震災遺構・伝承館「津波の恐ろしさをリアルに伝える 震災遺構・気仙沼向洋高校旧校舎」

取材・文=川元茂(編集部)
写真=池上勇人

POINT

『Kappo 仙台闊歩』は、東日本大震災以来、被災地の復旧・復興を取材し続けてきました。最新号でも、再起した飲食店や震災遺構、地元建設業の取り組み、三陸鉄道の復興、南三陸町の食文化などを紹介しています。本稿は『Kappo 仙台闊歩』2021年3月号vol.110 特集「岩手・宮城・福島 10年目の姿」より転載しています。

水産高校として100年以上の歴史を持つ気仙沼向洋高校の旧校舎を、被災当時のまま保存し、展示施設を併設。「最低でも90分は見てほしい」と佐藤館長。「けせんぬま震災伝承ネットワーク」に加入している語り部に案内してもらう場合は要予約。1グループ6000円(1~20名)。

遺構、映像、写真で 脅威と教訓を伝える

津波とその後の大規模火災による死者1152名(関連死含む)、行方不明者214名。『気仙沼市東日本大震災遺構・伝承館』は、震災の記憶と教訓を伝え、警鐘を鳴らし続ける「目に見える証」として、2019年3月に開館した。水産高校として100年以上の歴史を持つ気仙沼向洋高校の旧校舎を、被災当時のまま保存し、展示施設を併設。

館長の佐藤克美さんは「いま気仙沼で震災当時のありのままが残っている施設はここしかありません。あの津波によって校舎がこうなったという事実をストレートに伝えて、津波の怖さを知り、防災について考えてほしいと思います」と言う。

「家、流れた」「ここも危ないぞ。上へ!」。入館後すぐに通された映像シアターでは、悲痛な声が流れる。市内各地区の映像は、市民から提供されたものが多く、生々しく、津波の怖さをまざまざと見せつける。「あの日、気仙沼で何があったのか」を。

校舎の4階に到達した津波

震災遺構である校舎に足を踏み入れると、教室には机や椅子、本、什器、コンクリートなどが散乱して足の踏み場もない。3階には流されてきた車がひっくり返ったまま置かれていて、窓からの景色とのギャップに驚かされる。

さらに高さ12mの4階には、冷凍工場の激突跡が残る。津波で流された冷凍工場は、正面衝突は免れたものの、4階ベランダに激突、折れ曲がった。室内に散らばるスポンジは壁材の一部。

いま窓の向こうには、最近できたばかりのパークゴルフ場が広がるが、この高さまで津波が来たことに改めて衝撃を覚える。最終的に津波が到達したのは4階の床から25cmの地点までだったという。

校舎4階にある冷凍工場の激突跡。

各所に説明文が置かれ、スマホでコードを読み込めば、英語、中国語、韓国語、インドネシア語の音声ガイダンスが流れる。

生徒は高台へ。教員と工事関係者は屋上へ

海岸まで約500m。かつて海岸には数万本の松林があったという。いまは9.8mの防潮堤が並ぶ。海寄りの杉ノ下地区では93名が犠牲になった。 たのか」を。

あの日、気仙沼向洋高校には170名ほどの生徒がいた。プレハブ校舎にいた生徒たちは揺れが大きかったためグラウンドに集合。本来は屋上へ垂直避難する計画だったが、工事中であることと校内に重要書類があったため校舎に立ち入れず、引率の先生と近くの寺に向かった。

しかしここも危ないと判断し、高台にある階上中学校へ。移動距離は約2㎞。到着したのは地震発生から45分後のことだった。

一方、校舎に残った45名の教員と工事関係者たちは、屋上に避難。幸い全員無事だった。海に近いという立地もあり、日頃から防災意識が高かったことが功を奏した。

「東日本大震災に限らず、今後起きるであろう災害の備えをしてほしい。私たちができなかったことを次につなげるために、この場所が必要だと思う」とは佐藤館長。

津波は何度となくこの地を襲い、北校舎と南校舎の間が引き波の通り道となり、流されてきた車がこの場所で引っ掛かり、幾層にも折り重なった。

遺構を後にし、伝承館に戻る。講話室では再び映像が流れ、被災者の想いが語られる。そのうちの1本、階上中の卒業生代表・梶原雄太さんの答辞に胸を打たれた。

2011年3月22日、まだ避難者がひしめく体育館で中学3年生の彼が語った言葉に、10年の歳月を経た今でも勇気づけられる。一部引用させていただく。

「生かされた者として、顔を上げ、常に思いやりの心を持ち、強く、正しく、たくましく生きていかねばなりません。命の重さを知るには、大きすぎる代償でした。しかし、苦境にあっても、天を恨まず、運命に耐え、助け合って生きていくことが、これからの、わたくしたちの使命です」

津波の爪痕をそのままに残し、震災の記憶や教訓を多角的に伝える『気仙沼市東日本大震災遺構・伝承館』。10年経った今こそ訪れたい場所だ。

冷凍工場の衝突跡が残る校舎。信じがたい高さだ。「地震は14時46分でしたが、もしあれが15時30分だったら私自身生きていなかったかもしれません。市の職員として立ち会いに行く予定でした。私たちは生きているのではなく、生かされている。そんな感慨を持っています。すべてはタイミングだったのではないでしょうか」(佐藤館長)。

気仙沼市東日本大震災遺構・伝承館

住所
気仙沼市波路上瀬向9-1
電話
0226-28-9671
時間
10~3月9:30~16:00(受付~15:00)、4~9月~17:00(受付~16:00)
休日
月曜(祝日の場合、翌日)、祝日の翌日  (土日、GW期間を除く)、年末年始
WEB
https://kesennuma-memorial.jp/
備考
三陸道大谷海岸ICから車で約10分。料金/一般600円、高校生400円、小・中学生300円(団体割引あり)※語り部ガイド(約90分)は6000円(1~20名、学校教育活動の場合3000円)
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