PHOTO_齋藤太一
TEXT_梅津文代(編集部)
台原にある小さな森。その中に『satomi kiln(サトミキルン)』が建っている。
田代里見さんが仙台で白磁の器を作り続けて約20年になる。暮らしの中からものを生みだすことを身上にしてきた彼女にとって、2019年はひとつの転機だった。「還暦を機に、今後のものづくりの環境を整えたい」。器を作り、使って、見ることのできる場所。作陶と暮らしが一つの線でつながり、循環するさまを感じられる場所として、『Satomi kiln』がこの8月に誕生した。陶芸教室もできる制作スペースと息子さんが営むカフェ。隣には焼き杉で覆った窯場が立ち、今冬の完成を目指すギャラリーも工事中だ。
里見さんが手がける器は、基本的に白一色。不要なものを削ぎ落とし、形の美しさを追求した結果、わずかな反りや膨らみが雄弁な器となった。会津出身ゆえか、白は「積もった雪に陽の光が入った時の色」をイメージして、青みがかっている。カフェスペースでは「用の美」の精神から、彼女の作品でキーマカレーやドリンクが楽しめる。
「もとは小さな森があった場所で、自然をなるべく残したい。ここに来れば何かを感じてもらえるし、私自身もここで作る器に新しい可能性を感じます」と里見さんは話す。庭に設けたギャラリーは昔ながらの「版築」工法を用いて作っているという。木枠を組んで、その中に土を詰めて締め固めていく方法で、ここにも古(いにしえ)と今をつなごうとする彼女の志が垣間見える。台原の小さな森は、宮城の文化を発信する場として、その枝をさらに伸ばしていくに違いない。