Kappo 仙台闊歩

TRAVEL 2023.05.16

東北のアートを旅する 秋田県秋田市『秋田市文化創造館』【Kappo2023年5月号】

写真=池上勇人 TEXT=川野達子

Kappo5月号の巻頭特集「東北とアート」の中から、秋田県秋田市の『秋田市文化創造館』をご紹介します。

『秋田市文化創造館(あきたしぶんかそうぞうかん)』(秋田県秋田市)

かつてここには高さ約4m、幅約20mの『秋田の行事』が展示されていた「この余白にこそ、 大きな可能性を感じてほしい」と芦立さん。

市民による、市民のための、
市民に開かれた創造の場

展覧会としてスタジオを利用する市民も多いが「従来の貸会場に多いピクチャーレールはなく、壁に穴を開けての展示も推奨している」そう。表現したいことを実現させるためには何が必要か、最善の展示方法を考えるなど、チャレンジにつなげてほしいと目論む。もちろん開けた穴は元に戻す作業も必要。

1階のフリースペースには秋田杉を活用したテーブルやイスもある。

〝本日のイベント〞を記入したホワイトボードを1階入り口付近に設置。今日は何をやっているのか、フラッと見にくる人も増えたという。

桜の名所・千秋公園の入り口に、秋田に暮らす人や自分らしい表現を探す人々が、新しい活動を生み出すための拠点として、2021年3月にオープンした。
独特な形状の屋根と円い窓が特徴的なこの建物は、秋田県立美術館として1967年に開館し、藤田嗣治の大壁画『秋田の行事』を展示するなど、その役割を果たしてきた。
2013年に美術館は閉館し、現在は数百メートル離れた場所に移転している。
「閉館に伴い遊休化した旧県立美術館を解体して駐車場に、という話もあったようです。
しかし、この特徴的な建物の保存を強く望む市民も多かった」と同館でディレクターを務める芦立さやかさん。
2015年に秋田市が中心市街地を「芸術文化ゾーン」とする構想を発表。
芸術文化の交流施設として建物の活用が決定した。そこからの活動は目を見張るものがある。
旧県立美術館の再生を考えるワークショップ「せばなるあきた」を実施するなど、秋田のまちには何が不足してい
るのか、何を必要としているのか、市民から声を集め、事業化に向けた方向性を見出していったのだ。
時間はかかったが、結果的にその蓄積が運営体制を整えることにもなった。
2019年に改修工事がはじまると、合わせるように「乾杯ノ練習」と称したプレ事業を開始した。
「秋田では宴会の席で、参加者が全員集まる前に練習だからと飲みはじめる文化がある」といい、開館に向け気運を高めるためのイベントやプロジェクトによる〝練習〞は開館直前まで継続した。
その中のひとつ、市民のアイデアから生まれたダンスワークショップは同館のオープン日にお披露目されている。
「いろんな乾杯の練習が、現在の活動の広がりにつながっています」と芦立さんは話す。
館内は1階にコミュニティスペース、2・3階にスタジオが4カ所ある。
同館主催のイベントやプロジェクトがない日は、いずれも1時間単位で有料で借りることができ、専有利用がなければフリースペースとなる。
仕切りのないオープンなスペースが多く、7区画に分けて使用できるコミュニティスペースにも仕切りはない。それでも同時にマルシェ、展示会、水彩画教室、コーヒー研究会が開催されたこともあったという。
「音が聞こえ、香りも漂いますが、利用者と話し合いながら共有する方策を見つけていきます」。
多様な文化も欲望も交差する場所となるがゆえに化学反応が起き、新たな創造が期待できる。
何より話し合うことの大切さを芦立さんは指摘する。
「折り合いがつかない場合は私たちスタッフが関わりながら、『ここでできること』を考えてもらいます」。
効率とは真逆。
互いに面倒な作業も多いが利用者は増え、昨年度の利用件数は初年度の2倍となった。
「いかに市民が生き生きと活動できるかを考える施設でありたい」と芦立さん。
ルールを疑い、既成概念を取り払う日々だ。

今後のプログラム

5月中旬には〝病いと祈り〞をテーマにした映画上映会を行うなど、自分らしい創造を目指す人を応援する多様なプログラムが予定されている。

秋田市文化創造館(あきたしぶんかそうぞうかん)

住所
秋田県秋田市千秋明徳町3-16
電話
018・893・5656
時間
9:00~21:00
休日
火曜(祝日の場合は翌日休館)
WEB
https://akitacc.jp/

Kappo5月号は、宮城県内の書店、Amazonマチモールほかで発売中。

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