写真=池上勇人 TEXT=鎌田ゆう子、川野達子
Kappo3月号の巻頭特集「三陸へ」から、編集部が旅して見つけた、大船渡市のスポットをピックアップ。周辺エリアに行く予定がある人は、ぜひ立ち寄ってみてください。
おいしい!と笑顔になるハンバーガーを提供することが、店主・菊池 亮さんの唯一のこだわり。その味が人気を博している。 食材の大半は岩手県産を使う。「パティの肉は、『いわて短角和牛』に『黒毛和牛 門崎熟成肉』『四元豚ありすぽーく』や『南部どり』などです。野菜は端境期を除いて隣りの住田町の農家さんから毎朝仕入れています」。十分過ぎるほどのこだわり様ではないか。「こだわっているワケではないんです。地元においしいものがたくさんあって、それを集めたらこうなっただけのことで」とニッコリ。
いわて短角和牛などのブランド肉を使っても、その旨さを引き出さなくては意味がない。だから合わせるソース類やマヨネーズ、粒マスタードも自家製だ。バンズも毎日店で焼き上げる。四元豚ありすぽーくで作るベー
コンも自家製で、丸1日かけて燻製にする。鮮度抜群の野菜を挟む場所も、その量や種類も、至極よく考えられていて、バーガー1個にかけるこだわりは半端ではない。でも菊池さんにとってそれは当たり前のこと。おいしい!と笑顔になってもらうための仕込みに過ぎない。
「キャッセン大船渡とは社名であると共に、私たちがエリアマネジメントを行う大船渡駅周辺10・4 haのエリアの通称でもあります。当社ではエリア内に立つ物販・飲食施設『モール&パティオ』『フードヴィレッジ』の運営も担っています」と語るのは、株式会社キャッセン大船渡の取締役・臂徹さん。
同社が東北大学などと連携し、音声ARのシステムを利用して開発したのが、防災観光アドベンチャーゲーム「あの日〜大船渡からの贈り物〜」である。「震災の教訓を後世の人たちに継承することもエリアマネジメントの一環と考え、ほかにはない、大船渡だからこそできる伝承方法を模索していました」と話す臂さん。同社では2019年から「ソナエマチモリ」という防災イベントを開催しており、その中の1プログラムである避難訓練が開発のヒントとなった。「参加者は被災した方たちから当時の体験を直接聞き、高台まで避難するのですが、これをもっとゲーム性のある形にしたら震災時の記憶がないユース世代にも響くのではないかと思ったんです」。また、語り部をしてきた人も年を重ねていくことから、「今、生の声をアーカイブしておかなければ」という必要性に駆られたことも、開発へのモチベーションとなったという。
ゲーム内容は、復興した街「キャッセン大船渡」を巡り歩きながら、エリア内にちりばめられた二次元バーコード付きのボックスを探し、スマートフォンで読み取る。すると、当時この地で被災した人からの体験談が流れる「いきる知恵」、もしくは震災時に遭遇する可能性のあるジレンマをテーマにした三択クイズ「わかれ道」のいずれかを聴くことができるというもの。知恵を探し集め、クイズで正解を導き出し、高台にある加茂神社までたどり着けばゴールとなる。生死に関わるリアルな体験談や選択が没入感をより高め、「もし自分の住む町で地震が起
きたら…」と自分事として捉えることができるのが大きな特徴だ。
2014年に開業した『大船渡温泉』は、風光明媚で海の恵み豊かな大船渡湾を望む地に立つホテルだ。
館内に足を踏み入れた瞬間から、絶景のもてなしが始まる。まずロビーでは、壁面いっぱいに設えられたガラス窓の先に波風穏やかな湾の風景が広がり、訪れる人を揚々と出迎えてくれる。客室から刻々と変化する湾を眺めていると、時の経つのも忘れてしまうほど。日常の忙しなさや喧騒から解放され、「無」になれるひとときを過ごすことができる。このエリアで数少ない天然温泉が自慢の宿でもある『大船渡温泉』。露天風呂からももちろんオーシャンビューを享受することができる。暗闇の中に瞬く星やイカ釣り漁船の漁火を眺め、静寂の中に時折聞こえる波の音やウミネコの鳴き声をBGMに、「柔らかい」と評判の湯を心ゆくまで堪能しよう。
絶景に加えてこの宿のもう一つの売り、それは漁師でもあるオーナーが厳選した三陸の海の幸。基本コースとなる「さざ波コース」では、時季に応じてアワビの踊り焼きかホタテの貝焼き、そして今の季節はマコガレイやタラ、ソイ、ワラサといった三陸産の旬魚を用いた焼き魚、お造り、天ぷら、あら汁などが味わえる。また、宿泊客に振る舞われる名物の「カジキマグロのかぶと煮」も絶品。長時間煮込んだカジキマグロの頭は、味が染み込み、身はほろりと崩れるほどに柔らかだ。3月初旬まではオーナーが養殖した生ワカメのしゃぶしゃぶを朝食で楽しむこともできるのも嬉しい。良漁場である大船渡湾で育ったワカメ特有の、肉厚でシャキシャキとした歯応えと磯の風味を存分に満喫したい。